タクシーの中、忘年会の帰途についていた。
時間は夜の10時過ぎ、普段はタクシーなど使わずに電車で帰る時間だ。忘年会とはいえ、歩けないほど飲んだ訳ではない。むしろあまり飲めないのでほぼしらふだ。自分の左側を見ると、女性が寄りかかってぐったりとしている。
ふと30分位前の事…。
「課長!舞ちゃんがちょっと…同じ方向ですよね?」
舞ちゃんは先月から同じ課で働いている19歳の派遣で来た女の子だ。飲みすぎたのかフラフラしている。
話し掛けてきた同僚の高橋は酔っ払いを押し付けて自分は二次会のカラオケに行きたそうだった。
「あ〜わかった。わかった。ちゃんと送るよ」
「課長〜!変な事しちゃダメですよ〜」
「しねーよ!」
(だったらお前が送れっつーの)
まぁしかしその…19歳の子に寄りかかられて帰るのも悪くない。
自分は29歳。
最年少で課長になってしまったため、やっかみも多いみたいだがその分部下には人気があるみたいだ。
雰囲気でそう感じてるだけだが。
そんな事より彼女は寄りかかるだけではなく、右手を俺の太ももの上に置いている。
その位置が微妙なのだ。
小指と薬指がコートの上からではあるがちょっと当たってる。
股間に。
しかし、まもなく到着しそうだったので彼女を揺り起こした。
「舞ちゃん、舞ちゃん、そろそろじゃないの」
「……んっ…」
顔を上げたがぼけーっとしている。ここがどこだかわからないようだ。
「あっ…あそこのコンビニの前で…」
「運転手さんすいません。あそこのコンビニの前で」
(おいおい。めちゃくちゃご近所じゃねーか)
タクシーを降りると彼女はフラフラしながら歩き出した。
(なんだかなー)
危なっかしいので彼女の腰に手を回して支えた
。端からみたら恋人どうしに見えるのだろうか。
そんな事を考えていたら彼女が体を寄せてきて民家の壁に押し付けられた。
「おいおい、大丈夫か?」
「んー…大丈夫ですよぉ〜。全然〜」
「どう見ても大丈夫じゃないだろう」
「課長は〜そうやって〜みんなに優しいですよねぇ〜」
この子は何が言いたいんだ?どうも酔っ払いの相手は苦手だ。
「しかも〜なんかクールですよねぇ〜」
「そう?その話は今度ゆっくり聞くから、まず家に帰ろう」
「はーい」
彼女の誘導で家に行くと、自分の家から1分位で着いてしまうような距離だった。
(驚いたな……)