55この『となりのトトロ』。劇場公開時のポスターやパンフレットには、ある秘密が隠されている。「稲荷前」と書かれたバス停の前の様子。葉っぱを頭に乗せたトトロの隣に、赤い傘を差した二つ結びの少女が立っている。





・『となりのトトロ』ポスターの少女は映画に登場しない。その正体は?


スタジオジブリの広報部に取材すると「かなり前の映画ということもあって、詳しいことは諸説あってはっきりしません」としつつも、「サツキとメイの特徴を1人の女の子に集約したというのは、間違いないようです」というコメントだった。

2人の少女が1人に……とは、どういうことだろう。その後、関連資料を調べていくと、興味深いことが分かった。





『となりのトトロ』の原型となったのは、1975年に宮崎監督が描いた3枚のイメージボードだった。このときすでに、バス停で父親を待つ少女と、頭の上に葉っぱを載せた謎の生き物が描かれている。このときは絵本にするつもりで、主人公の少女は1人だった。79年にもテレビの特別番組などの企画が動き、イメージボードが新たに描かれたが幻になっている。

その後、1986年末から『となりのトトロ』の制作が本格的に始まると、宮崎監督は主人公の少女を2人の姉妹に設定変更した。その理由は、同時上映される『火垂るの墓』(高畑勲監督)の上映時間が予定より延びたことに伴い、『となりのトトロ』の上映時間が延びたことが理由だったという。

「ジブリの教科書3 となりのトトロ」(文春ジブリ文庫)の中で、製作委員会のメンバーだった鈴木敏夫さんは次のように振り返っている。





「『となりのトトロ』は本来、女の子とオバケの交流で、その女の子は一人だったんですが、高畑さんへの対抗心に燃えた宮さんは「映画を長くするいい方法はないかな」と言い出して、それで一人の女の子を姉妹にすることを自ら思いつくんです。サツキとメイは、宮崎駿の負けず嫌いの性格から誕生したのです」
 
そして、1987年夏ごろに『となりのトトロ』のポスターの原画を宮崎監督が描いた。

『となりのトトロ』の制作デスクを務めた木原浩勝さんの著書『ふたりのトトロ』(講談社)によると、第2稿まではサツキとトトロが並んでいたのだが、第3稿になって、以前のイメージボードに近いサツキでもメイでもない少女が描かれたという。

バス停で待っているのがサツキ1人でいいのか……という問題があったが、宮崎監督は「サツキとメイの二人がトトロと並ぶのは、どうしても違う」と主張。その結果、二人の特徴を併せ持つ少女が描かれることになったのだという・・