都市伝説に隠された意味/iStock
都市伝説とは、出所や根拠が曖昧ながらも、口伝えで多くの人々に広まっていった噂話の一種である。共通点は、特定出来ない人が体験した話だ。
日本だと「口裂け女」や「トイレの花子さん」、海外だと「ブラディ・マリー」や「消えるヒッチハイカー」なんかが有名だ。
こうした話は、ありふれた日常と超自然的なものを結びつけて、周囲に対するわたしたちの考え方を変えてしまう。一見ありえない話のように思えるが、都市伝説が我々の現実の問題を映し出していることもある。
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混沌とした都市部に渦巻く不安を具現化
現代の都市部は、そこに住む者からコントロール感覚を奪ってしまう場所なのかもしれない。都市はとてつもなく複雑なため、そこに住む者すら、ほとんどなにもわかっていないと言っても差し支えないだろう。
都市伝説は、こうした混沌とした環境の中での日々の生活の不安に着目し、具体的な対象に置き換える方法をおしえてくれる。
同時にこうした都市伝説を他者と共有することで、再びなんらかのコミュニティ感覚を作り出す助けになる。
イギリスの民間伝承の研究者、カール・ベル氏は、19世紀のイギリスの人々が言い伝えを利用して、どのように都市生活体験に適応していたのかを調べた。
言い伝えというものは、古い文化的信念の名残にこだわらずにどんどん更新されていき、そのときどきの社会に即したものとなる。
いわば、都市の拡大やよそ者の脅威、コミュニティ感覚の欠如などに対する懸念を表わしているという。人間同士のつきあいがだんだん希薄になってきたせいだ考えられるという。
よそ者に対する警戒心が都市伝説を生む
ヴィクトリア朝時代のロンドンでは、こうした不安感、不穏感が、カギヅメをもち、炎を吐きながら徘徊する怪人「バネ足ジャック」の噂話に火をつけた。
19世紀のバネ足ジャックのイラスト image by:public domain/wikimedia
1837年に、ロンドンのはずれの村がこの怪人に脅かされたのが始まりと言われている。当時の新聞で広く報道され、人々は暗くなってから、通りに出るのを怖れるようになった。
この謎めいた怪人の噂はまたたく間に広まったが、モーニング・ヘラルド紙のある記者は、1838年1月10日の紙面でこう指摘している。
ありとあらゆる人が噂をしているが、実際にこの幽霊の姿を見た者は、誰ひとりとして見つかっていない
被害にあったという人に話を訊いても、彼らは即座になにも知らないと否定し、じゃあ、怖ろしい体験をしたという他者から話を聞いたのかと問いかけても、どこか要領を得なかったという。
より効果を狙ってのことなのか、都市伝説はほどよく距離をおいて曖昧にしておく必要があるようだ。
異様な現象が自分がよく知っている知人の身に起こることはほとんどなく、友だちの友だちの話といった希薄なつながりの中で、また聞きの形で伝えられることが多い。(バネ足ジャックのケースは珍しいことに、ちゃんと名前の判明している人物が、治安判事の前で1838年2月に自分の体験を証言している)。
噂話の真偽をきちんと確認することができない、こうした希薄さ、緩さが、曖昧なつながりの感覚を生み出す。都市生活の匿名性やよそ者は危険だという風潮の中、こうした話は尾ひれがついて広まっていく。
これは、必ずしもマイナスなことではない。昔からの言い伝えと同様、現代の超常現象話は、わたしたちの都市空間を豊かなものにし、その意味を変えることもある。
ある家や学校や工場に幽霊が出ると一度聞いてしまったら、その場所を見る目がこれまでとはまるで違ってしまう。
これは、噂を広める人や、噂が出回っているコミュニティに、周囲に影響を与えているという感覚をもたらす。この他者への影響=つながり感覚は、都市環境ではたいてい不足しているものだ。
iStock
現代の都市伝説の存在意義
昔も今も相変わらず都市伝説がもてはやされるのは、現代のわたしたちの都市体験が超自然的な考えと切っても切れないことを意味している。
昔は、こうした都市伝説をダシにして、母親が子どもたちに注意をうながした。「緑の牙のジェニー(イギリスのランカシャー地方の湖や川に棲んでいるという、人間に害をなす妖精の一種)」に水の中に引きずり込まれてしまうから、深い池の淵に近づきすぎてはいけない、という具合だ。
アイルランドに伝わる女妖精「バンシー」は、人の死を叫び声で予告するというというが、現代のリメリック(アイルランド南西部)にいまだに現れるという。
こうした警告としての都市伝説は、かつて反社会的活動で有名だった町の一角から、子どもたちを遠ざける意味があった。「緑の牙のジェニー」のような古い話もそうだが、都市伝説は安全と危険の境をはっきりさせる助けになっている。
緑の牙のジェニー image by:u/nujiok
21世紀になってからの「北京の霊界行きバス」の話は、知らないで冥界行きのバスに乗ってしまった"人間"を、賢明な老人がうまいこと言いくるめてバスから降ろして救い、そのまま姿を消したという話だ。
古典的な超常現象のモチーフを描きながら、夜遅くに町をうろつきまわる危うさを表わしているといえよう。機転が効いた警告の仕方は見事だが、話は古典的な言い伝えモードで展開していく。
夜行バスに乗るときは、死の瀬戸際を想像することで、気をつけなくてはいけないことを学ぶ。そうとらえば、こうした都市伝説の真偽のほどは、そこから受け取ることのできるメッセージよりもたいして重要でないかもしれない。
都市伝説はただの言い伝えではない
都市伝説はただの言い伝えではない。怪物を語るとき、その怪物は、まとめて吐き出すことによってわたしたちの不安や環境に対処できる、強力な手段になるという隠された意味をもつ。
怪物は、わたしたちの都市のこれまで知らなかった地形をあぶり出す。そこは、彼らについての話を語ることで、再度イメージされるものだ。都市というところは、超自然のものがわたしたちに実質的な教訓をおしえてくれる場所なのかもしれない。
References:From Victorian demons to the Beijing night bus: why we tell each other urban legends/ written by konohazuku / edited by parumo
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コメント
1. 匿名処理班
原始で狩猟していた時代から都市伝説ってありそう。
4mを超えるクマを見たとか、恐ろしい角とデカい翼の生えた獣を見た、とか
2. 匿名処理班
バネ足ジャック。きっと18世紀のドクター中松だな
3. 匿名処理班
人間にとっては世界の把握の状態として「現実」も「都市伝説」も違いは無いよね実は
4. 匿名処理班
都市と言えるような場所が舞台じゃなくても「都市伝説」と呼ばれるのは何故なのか。
例えば八尺様とかクネクネとか。現代民話とでも呼ぶべきではないのか、とは感じている。
5. 匿名処理班
群れを形成する動物は共通認識を共有しないと統率がとれなくなる
敵とは何なのか 個々が自由にてんでバラバラに敵を認識していたのでは群れはやがて崩壊する
群れ全体が共通の敵を共有するからこそ群れは群れとして存続できる
人間も群れる動物ゆえに本能的に無意識に都市伝説を共有してまとまりを保とうとしている
6. 匿名処理班
>>1
都市に限られないけど、伝承・伝説のいくつかは警告の意味があると言われてるね
カッパは水死への警告とか
7. 匿名処理班
日本の都市伝説は政府が噂の流布の速さを調査するために流したという都市伝説
8. 匿名処理班
※4
都市伝説=現代民話だけど「伝説」って響きがいいから
みんな「都市伝説」ばっかり使ってるってオチじゃないかな