パンスペルミア仮説/iStock
風に乗って遠くまで旅するたんぽぽの綿毛のように、小さなバクテリアもまた広大な宇宙をただよって旅ができるだなんて想像したことはあるだろうか?
それは単なる夢想家の絵空事などではなく、これが地球で営まれている生命という現象のはじまりなのかもしれないと、真剣に考える科学者たちがいる。
こうした地球の生命の起源は宇宙からやってきた微生物であると考える仮説のことを「パンスペルミア仮説」という。
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パンスペルミア仮説を検証する「たんぽぽ計画」
今、宇宙航空研究開発機構(JAXA)をはじめとするグループが進めている「たんぽぽ計画」は、パンスペルミア仮説を検証するためのプロジェクトだ。
生命にとっては過酷すぎる宇宙空間だが、小惑星や彗星のような岩石ならば、紫外線のシールドとなり、大気圏突入の際の熱や衝撃からも守ってくれるだろう。
このように地球の生命の起源は、宇宙の岩石に付着した微生物であるという説のことを、特に「岩石パンスペルミア説」という。
だが、最新の研究では、生命の方舟はなにも岩石だけではないかもしれないことを示唆している――それは細胞の集合体だ。
mall;">きぼう実験棟(左)と船外実験プラットフォーム(右) image by:NASA / WIKI commons
真空の宇宙空間に3年間放置
JAXA・東京薬科大学の山岸明彦名誉教授ら共同研究グループは、国際宇宙ステーションの日本実験棟である「きぼう」の外に、乾燥した細菌の細胞を集めたもの(ペレット)を容器に入れて放置した。
そんなひどい目にあわされた哀れな細菌は、デイノコッカス属の仲間である。だが実のところ、その1種である「デイノコッカス・ラディオデュランス」は、5000グレイの放射線でも死なない放射線耐性を持つことで知られる最強の生物の1つだ(人間は10グレイで死ぬ)。
そして『Frontiers in Microbiology』(8月26日付)に掲載された研究によると、宇宙空間にさらされたペレットは、3年にもわたり微小重力、強烈な紫外線、極端な温度にも耐えて生存したとのことだ。
最強細菌、デイノコッカス・ラディオデュランス image by:public domain/wikimedia
死んだ細胞がシールドの役割をはたす
生存が確認されたのは厚さ500マイクロメートル(0.5ミリ)よりも厚いペレットで、その細胞を培養したところ、DNAのダメージまで修復されていたという。
ペレットの表面は、紫外線によってDNAがひどい損傷を受け、また炭素結合が引き裂かれた結果として白化していたようだ。しかしその下は、死んだ細胞に守られてそのようなダメージが特に検出されなかった。
表面の劣化具合から推測すると、細胞ペレットの厚さが1ミリあれば、デイノコッカス・ラディオデュランスなら2〜8年は宇宙で生き延びられると考えられるそうだ。
細胞の集合体という宇宙の方舟
山岸明彦教授によれば、地球と火星は、最短軌道を行くなら数ヶ月から数年で到達することができる。
つまりデイノコッカスは、その旅路を生き抜くだけの耐性を持っており、そのペレットは微生物にとっての宇宙の方舟になれるということだ。
今回の結果により、パンスペルミア説の信憑性はまたも高まったことになるのかもしれない。なんだかちょっとワクワクしてきたぞ。
Frontiers | DNA Damage and Survival Time Course of Deinococcal Cell Pellets During 3 Years of Exposure to Outer Space | MicrobiologyReferences:sciencealert / sciencenews/ written by hiroching / edited by parumo
https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fmicb.2020.02050/full
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コメント
1. 匿名処理班
地球人類は、未だ未だ無知だということは確かだ
2. 匿名処理班
インフルエンザウイルスは太陽風に乗って宇宙からやってくるんじゃないのか、という仮説があったな。
インフルエンザウイルスは北極圏から香港あたりまで渡り鳥が運んでくるのだが、じゃあ北極圏にはどんな力がウイルスを運んでゆくのか、そもそもウイルスの発生源はどこなのか、それがわからない。太陽風に乗って、オーロラみたいに極に集まってくる、としか考えられない、という仮説でな。
3. 匿名処理班
申し訳ないけれど、パンスペルミア説は自分としてはどうもね。
微生物が宇宙空間を渡れるということは、地球生命の起源が地球外であるという可能性を提示するだけで、「だから地球外が起源なのだ」という結論にはならない。
それに、仮に地球生命が地球起源ではなく地球外から訪れたというのならば,ではその地球外生命はどこで、どのように誕生したのか、という疑問が生じるし、生命の起源に関する問題の先送りになってしまう。
また、広大な恒星間空間を微生物が移動できるという可能性は皆無だ。
ありうるとすれば、太陽系の初期、生命の発生が可能だった金星か火星で生命が誕生し、そこに小惑星の衝突があって、はじかれた破片に乗って生命体が地球に飛来したという可能性。
だがそれも、逆に地球における生命の誕生の方が先であって、それが金星や火星に渡ったという可能性もあるだろう。
自分としては、微少生命が宇宙空間を渡るなどという難しい可能性よりも、地球生命体はこの地球で(熱水噴水口などで)誕生したという可能性の方が、論理的に考えてはるかに高いと思いますね。
4. 匿名処理班
たった2〜8年じゃね
火星から来たとでも言いたいんだろうけど
5. 匿名処理班
ぶっちゃけ個人的には、少なくとも単純な生命は宇宙に普遍的に存在していてほしいな。生命が存在するのは地球だけってのも、ロマンが無いし、なんだか寂しいからね…
6. 匿名処理班
宇宙から最近やって来たんだろうな
7. 匿名処理班
芽胞状態で堆積物に取り込まれそれが地質学的作用で岩石化しさらに巨大隕石の衝突などで第二宇宙速度を超える勢いで吹き飛ばされ何百何千年と宇宙空間を漂い大気圏に突入して衝突のエネルギーに耐える。そこまでタフだからちょっとやそっとの環境圧ではDNAが変化せず真核生物に進化するのに20億年もかかったのなら納得。