植物を使って森の中の遺体を探し出す方法 / Pixabay
緑が生いしげる森はときに人を癒してくれるが、その奥には深い闇をたたえており、森の中で息絶えた人の遺体は、そう簡単には見つからない。
鬱蒼としげる木々や人間の侵入を拒む地形が捜索隊の行手を阻み、そうこうしている間に遺体は腐敗し、失われていく。ゆえに森に隠された遺体が何らかの犯罪の犠牲者だったとしても、その解決は難しい。
そこで科学者は考えた。植物に目撃証言を得て遺体を探し出すことはできないかと。これは「法植物学」と呼ばれるもので、『Trends in Plant Science』(9月3日付)に掲載された研究では、植物に残された痕跡から遺体を発見する方法が模索されている。
スポンサードリンク
植物の目撃証言とは?
人が死んだ後に残された遺体は、やがて腐り始め、化学物質を放出するようになる。だから遺体の周囲に生えている植物は、その化学物質の影響を受けて状態が変化する。
これをいわば”植物の目撃証言”として利用することができる。たとえば、それは葉の色を変えるかもしれない。あるいは、それによって特に繁殖しやすい植物もあるかもしれない。
テネシー大学(アメリカ)の研究グループが特に注目しているのは「窒素」だ。
腐敗する遺体から放出される窒素は、植物にとっては栄養なので、その中で「葉緑素」がたくさん作られるようになる。その結果として、遺体の周囲にある植物の葉は、普通よりも緑色が濃くなると考えられるのだ。
Pixabay
ボディファーム(遺体農場)で実験開始
このことを検証するために、研究グループは大学構内にある「ボディファーム(遺体農場)」と呼ばれる区画で実験してみることにした。
ここは、さまざまな遺体が放置され、その腐敗プロセスやそれが周囲の環境に与える影響などが観察されている世界でもユニークな施設だ。
すでに述べたように、人間の遺体から化学物質が放出されるために、その周囲の土壌や環境の化学組成・微生物叢には変化が生じる。こうしたエリアのことを、研究グループは「死体腐敗島(cadaver decomposition island)」と呼んでいる。
そうした独特の化学・生物組成(「死体生物叢(necrobiome)」は、周囲に生えている植物内の化学組成を変え、その葉に遠くからでも検出できるような変化を生じさせる。
Pixabay
遺体のある場所では植生の変化も
また死体腐敗島の植生自体も変わると考えられる。遺体による環境の変化に素早く対応できる生物ほど繁殖しやすいからだ。そうした植物は往々にして、長い根を伸ばして環境の変化に対応することに長けた侵略性外来種であるという。
さらに植物の変化を生じさせた遺体が人間のものなのかどうかは、人間に特有の「代謝体」の影響を調べることで区別することができる。
あとはこうして集められたデータを元に、人間の遺体が作り出した死体腐敗島の木々の葉の色――つまりは反射率や自己蛍光をドローンなどで上空から検出してやればいい。
image by:Brabazon et.
アメリカでは毎年10万人が行方不明に
こうした法植物学の研究が行われているアメリカでは、毎年10万人もの人々が行方不明になっているそうだ。
しかし、その捜索のための人手や資金は限られており、しかも森のような場所は捜索隊にとっても危険なので、行方不明者の捜索はいっそう困難なものとなっている。
将来的には、法植物学の知見がそうした捜索の効率を改善し、迅速な遺体発見を可能にしてくれるだろうとのことだ。
Plants to Remotely Detect Human Decomposition?: Trends in Plant ScienceReferences:arstechnica / inverse / futurism/ written by hiroching / edited by parumo
https://www.cell.com/trends/plant-science/fulltext/S1360-1385(20)30243-0
あわせて読みたい
人の死体は死後1年以上経っても動くことが死体農場の研究で明らかに(オーストラリア研究)
人間の死体の骨を食べる鹿の姿が初めて観察される(アメリカ)
元FBIの法医学者が頭蓋骨から顔を復元する過程を公開
犯罪捜査に大きな変化をもたらした10の殺人事件簿
シベリアの川辺で発見された54の人間の手首。一体何が?(ロシア)※閲覧注意
この記事が気に入ったら
いいね!しよう
いいね!しよう
カラパイアの最新記事をお届けします
「知る」カテゴリの最新記事
「植物・菌類・微生物」カテゴリの最新記事
この記事をシェア :
人気記事
最新週間ランキング
1位 6761 points | お腹を空かせた野良猫に自分の餌を分け与える犬 | |
2位 5706 points | もふもふ真っ白の別羊に変身!シャワーを浴びた羊のビフォア・アフター(羊カフェ) | |
3位 5141 points | 「求人してますか?」自動車修理店にふらりと現れたオンドリ、熱意を買われてスタッフの一員に(アメリカ) | |
4位 4409 points | 自宅の敷地内に毎日自転車で入り込んでくる少年に住民がとった対応がやさしさに溢れていた!(アメリカ) | |
5位 3737 points | メンズ水着革命。キュートさを前面に押し出したワンショルダータイプの水着「ブローキニ」がナウオンセール(カナダ) |
スポンサードリンク
コメント
1. 匿名処理班
植物の育ち具合でも古代都市や宝探しも可能
反面、ヒトの傷つけた自然は1000年や2000年程度では戻らないという
地球の現実を思い知る
2. 匿名処理班
人型に草が!!
3. 匿名処理班
桜の色がキレイ
とか
4. 匿名処理班
遺体の埋まっている場所の植物が、枯れてるとか、元気になるとか、色が変わるとか…推理物で時々あるやつの進化バージョンか
5. 匿名処理班
※2
極論それを元に行方不明者探すのと変わらんのだよね
シンプルな手段を精密を極める手法で行う科学の粋だね
6. 匿名処理班
虫はよく犯罪捜査に使われてる、その植物版か。
日本では昔から「桜の樹の下には死体が眠っている」と言われてるよ。
(本当は塚に桜を植えることが多いんだけど)