宇宙飛行士がレビューした宇宙映画 / Pixabay
昨今の映画はどれも本物らしく作られており、絶対にあり得ないシーンであっても、現実かと見紛うばかりのリアリティを感じさせてくれる。
それは宇宙をテーマにした作品であっても同じこと。現在を描いたものであれ、過去や未来が舞台のものであれ、スクリーンに映し出される宇宙空間は、本当にそこを訪れたかのような気分にさせてくれる。
だが本当のところ、宇宙に飛び出したことがある人などほとんどいない。だから大抵の人には、それが宇宙の真実なのかどうか判然としない。だったら本物の宇宙飛行士にその出来栄えを判断してもらえばいい。
ここでは、3人の宇宙飛行士がレビューした10本の宇宙映画作品についてみていくことにしよう。あらかじめ言っておく。ネタバレ注意だ!
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レビューしてくれたのは、国際宇宙ステーションで司令官を務めたクリス・ハドフィールド氏、NASAの元宇宙飛行士ギャレット・ライスマン氏、同じく元NASAの宇宙飛行士ニコル・ストット氏である。
10. インターステラー(2014年日本公開)
地球規模の災害によって人類が滅亡の危機に瀕した近未来。NASAの科学者や宇宙飛行士らが新天地を求めて、宇宙へ旅に出る。
ハドフィールド氏は、ブラックホールについて「混乱する」と発言。おそらくあまりいい意味ではないだろう。ただし、その内部での出来事について、あまり言うべきことはないとのこと。
というのも、ブラックホールの中に入った人間は一人としていないため、実際のところ、そこで何が起きるのかは誰にも分からないからだ。
一方、ライスマン氏は、本棚の4次元立方体はあまり好きではないと感想を述べながらも、全体としては8ポイントと高く評価している。それ以外の科学的描写はかなりいい出来で、特に相対論的な効果はよくできているとのことだ。
9. ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー(2014年日本公開)
「アライグマの話なら何でもいいよ」とライスマン氏は投げやりだ。動画のシーンでは、スター・ロード(クリス・プラット)がヘルメットを着用して、宇宙空間へと飛び出している。頭部はそれで守られるとしても、それ以外の部分はどうなっているのか?
もちろんこれはフィクションで、自己犠牲を通じてガモーラ(ゾーイ・サルダナ)への愛を演出しているということは分かっている。が、現実に同じことをしたらどうなるかは気になるところ。
まずは気圧外傷が生じる。真空では体を押し付ける気圧がまったくなく、肺や気腔の中の気体が急激に膨張してしまうためだ。それから減圧症になる。
これは深く潜ったダイバーが急に浮上して、体の内外の気体が釣り合っていないときにかかる症状と同じだ。ただし、トータル・リコールのように体が破裂するような過激なものではないそうだ。
8. トータル・リコール(1990年日本公開)
そのエンディングについては今も議論が交わされている。果たして主人公ダグラス・クエイド(アーノルド・シュワルツェネッガー)は、本当に偽の記憶を植え付けられた工作員だったのか? それとも映画で展開される物語は、彼の偽の記憶でしかなかったのか?
だが宇宙飛行士の関心はそうした謎めいたストーリーではなく、たとえば砕けたヘルメットに向けられている。
ストット氏によれば、宇宙服のヘルメットはとても頑丈にできているのだとか。鋭い金属片などで割れてしまうようなパーツもあるが、バイザーの部分は頑丈なポリカーボネート製で、衝撃がくわわったからといってそう簡単には砕けないそうだ。
7. ゼロ・グラビティ(2013年日本公開)
宇宙から見える風景がどんな感じか知りたければ、ゼロ・グラビティがとても優れた作品だということについて、3人の宇宙飛行士は同意している。
ストット氏によれば、風景や音がとても正確で、彼女が宇宙遊泳したときの体験とそっくりだそうだ。
またハドフィールド氏は、ゆっくりと回転する地球と美しい光が描かれているオープニングは、そのときに感じられる感動をそのまま味わせてくれると称賛し、「宇宙飛行士以外の部分にも注目してもらいたいね」と述べている。
だが難点がないわけでもない。この作品では、宇宙にただようデブリによって国際宇宙ステーションに大事故が起きるというストーリーが描かれる。
ストット氏によると、実際のところは拳より大きなありとあらゆるデブリがすでに追跡されているのだという。そのために、大量のデブリが宇宙飛行士を不意に奇襲するような話は、あまり現実的ではないのだとか。
また物理的にもおかしなところがある。動画のシーンでは、ハッブル宇宙望遠鏡の修理をしていた宇宙飛行士(サンドラ・ブロック)が命綱を解いた瞬間、ロボットアームには何事もないのに、彼女だけに何らかの外的な力がくわわったかのように吹き飛ばされている。
ほかのシーンでは、別の宇宙飛行士(ジョージ・クルーニー)の命綱をつかんだサンドラ・ブロックに対して、彼は彼女が助かるために自分を手放せと告げる。だがジョージ・クルーニーの動きを止めることができたのなら、彼はもうどこにも飛んでいかないはずだ。
さらに映画では、人工衛星が時速200キロで飛行していることになっているが、宇宙飛行士にしてみれば鼻で笑うような速度だとか。現実の人工衛星は秒速8キロ――銃弾の10倍以上の速度でぶっ飛んでおり、それが何なのか認識できる間もないくらい速いのだそうだ。
6. アルマゲドン(1998年日本公開)
ハドフィールド氏の評は、悲惨な茶番だそうだ。「これまでのどんな宇宙映画よりもひどい」
ただしストット氏は評価すべき点もあると擁護する。特に動画のプールでのシーンだ。NASAでは彼女も実際に巨大プールでこうした訓練を行なっており、そのときのことを思い出すという。
水中訓練では、宇宙飛行士と一緒に安全面を担うダイバーも潜っており、サポートを受けられるのだとか。「ありがたいことに、宇宙ではもっと楽に動き回れますよ。」
彼女によれば、12日間の訓練というのはほとんど無茶であるらしいが、宇宙の感覚に慣れてもらうためのものと考えれば、それなりに合点はいくようだ。
ただし現実の宇宙飛行士の訓練目的は、宇宙で作業することになる複雑なシステムを学習することだ。
5. ファースト・マン(2019年日本公開)
宇宙飛行士になる人の多くは、それ以前に何か専門的なキャリアを積んでいるものだ。たとえば、人類で初めて月面に降り立ったニール・アームストロングは元テストパイロットだった。
動画のシーンでは、彼はX-15を操縦しており、そのこと自体には問題がない。しかしハドフィールド氏によれば、機体の振動は感知できないほどに微弱なのだそうだ。
映画のレベルまで揺れるようなら、間違いなくどこかがおかしいはず。なのに、機体は突然静まり返る。どうなっているのか?
機体の窓から見える風景もおかしいとのこと。現実には高度が上がれば、その分だけ暗くなる。それなのに本作では、青い空が突如として暗転する。
だがハドフィールド氏的に一番ガッカリなのは、陰気な大気とちっとも楽しそうではないミッションの描写だそうだ。
宇宙飛行士の仕事はとてつもない大冒険で、そこに携わる者なら誰しもその危険性をよく知っていると同時に、宇宙に行けるかもしれないという期待にみんなワクワクしているとのことだ。
4. パッセンジャー(2017年日本公開)
宇宙空間で重力を発生させるにはどうすればいいだろうか? 答えは宇宙船を回転させて、その遠心力を利用することだ。グルグルと回る遊園地のコーヒーカップに乗ると、体が壁にぐっと押しつけられるが、宇宙船でも同じことをやって、それを重力として代用するのだ。
船の回転が止まり、突然遠心力が消えてしまった状況の演出として、プールのシーンは視覚には素晴らしい。ストット氏によれば、プールの水の塊の描写は現実的で、まさに国際宇宙ステーションの水滴がそうなるのだそうだ。
しかしその状況が実際に起きるかというと、そうでもなさそうだ。ハドフィールド氏によれば、宇宙で巨大な船の動きをピタッと止めようと思えば、相当に大きな力が必要になる。
反対に宇宙船を再び回転させるのだって、かなりの時間とエネルギーが必要になる。遠心力がパッと回復して、すべてが元どおりというようなことはなさそうだ。
3. オデッセイ(2016年日本公開)
ライスマン氏の評価では9だ。宇宙服のグローブに開いた穴からジェットのように噴出するという点以外は、とても正確に宇宙を描写しているという。
だがハドフィールド氏は反論しており、科学的には間違いが散見されるという。たとえば、主人公マーク・ワトニー(マット・デイモン)が、映画のようにムキムキのはずはないという。火星の重力は地球の38%しかない。だから、彼が支える体重は地球の3分の1程度しかなくなるのだ。また火星の大気はとても薄く、地球でならエベレストの4倍の高度に相当する。
ただし、じゃがいもを栽培するシーンは意外と現実に近いそうだ。必要なのは栄養たっぷりの土(ワトニーは自分の排泄物でまかなった)、熱、水、酸素だけだ。これらは宇宙船の備品を利用すれば、比較的単純な化学反応で用意することができ、そうした訓練を受けた宇宙飛行士ならお手のものだろうとのことだ。
2. 2001年宇宙の旅(1968年日本公開)
ライスマン氏とハドフィールド氏のお気に入りで、科学的にも素晴らしい。つまり映画として優れているだけでなく、その描写も現実的ということだ。
ハドフィールド氏は、自身が初めての宇宙遊泳から帰還したとき、妻に何と説明したらいいか分からなかったという。だが「映画のとおり」と伝えることならできた。本作品が月面着陸以前に撮影されたことを考えれば、それがいかにスゴいことか分かるだろう。
本作品には遠心力を利用して重力を再現するという描写もある。ライスマン氏によれば、その回転速度すら正しいのだとか。分速1.5回転で1/2Gが発生するらしく、それだけの重力があれば地球と同じような感覚が得られ、人も物もきちんと床の上に留まってくれるそうだ。
1. アポロ13(1995年日本公開)
“輝かしい失敗”と評されたアポロ13号の爆発事故を描いた作品。「多分、あらゆる宇宙映画の中で一番現実的だね」と、ハドフィールド氏。
アポロ13号の月面着陸ミッション中、機体が損傷。警報が鳴り響く船内で、クルーは「ヒューストン、問題発生」と告げる。とてもインパクトのあるセリフで、ハドフィールド氏も現場で言ったことがあるとのこと。これを聞いた者は、直ちに作業を中断して、司令官からの命令を待つ。
作品で描かれた宇宙船内での出来事は非常にドラマチックで、しかも現実が忠実に再現されている。監督のロン・ハワードは、描写を正確にするために多大な時間を費やしたという。
緊迫した場面でのセリフは、NASAの記録をそのままなぞったものだ。ライスマン氏は、映画監督が機材を持って宇宙に行ったわけでもないのに、ほとんどドキュメンタリーのレベルと評している。
References:Top 10 Space Movies Judged By Actual Astronauts - Listverse/ written by hiroching / edited by parumo
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コメント
1. 匿名処理班
俺の宇宙では音がするんだ
2. 匿名処理班
2001年宇宙の旅の科学考証は本当にすごい
ほとんどの映画、特撮でコンピューターからの出力がパンチテープで描かれてた時代にちゃんとディスプレイに映し出すという描写をしている
当たり前じゃんと思うかもしれないけど、1968年ってアポロ11号の打ち上げより前なんだよ
3. 匿名処理班
(ゼロ)グラビティ好きだから言うけど、物語を動かすためにちょっと不自然な法則で物を動かすくらい見逃してくれてもいいよね…
…ワイスピに向かって乗り物の挙動を説く人なんていないだろうし
4. 匿名処理班
「えー、では最後に番外として「カプリコン1」という’70年代後半に封切られた作品についてお聞きしたいのですが」
「あー、すまない、あれについてコメントする権限を与えられていないんだよ」
「3人ともですか?」
「いや、NASAの全員だ」
え?ええええええ〜(゚_゚;)
5. 匿名処理班
「2001年」ではテレビ受像機が液晶パネル。「2010」ではブラウン管。
6. 匿名処理班
トータルリコールの物語は全てリコール社が主人公に植え付けた偽の記憶って設定なんで、リアルな宇宙描写を求める映画とは違う気がする。
7. 匿名処理班
オデッセイ:
限られた食糧しかないこともあって、ワトニーは終盤ガリガリに痩せてしまったよ。ジャガイモを育てた例の有機物は、彼以外のブツも使っているし。
と細かいツッコミは別にして、宇宙もの映画は大好き。インターステラーは先日のノーラン祭りでまたIMAX堪能しました。
ファンタジー寄りの作品はこの考証の対象にしていいもんかいなとは思うが、まあ箸休め的でよろしいかと。
8. 匿名処理班
「ファーストマン」は原作伝記の方がお勧め。分厚いけど。
9. 匿名処理班
※3
それができるのが映画のいいところですね。全編に渡って描写がとてつもなくリアルで、あんな没入感に浸れる作品はそうそうない。リバイバル上映が待ち遠しい作品です。
10. 匿名処理班
NASA関係者「一番凄いのは月面着陸の映像さ!まるで本当に月に着陸したみたいだろ?