過去に戻れても未来は変えられない /iStock
現在の自分は過去の積み重ねである。過去に干渉すれば現在や未来が変わっていくと考えるのが普通だろう。だがここで矛盾が生じる。
もしタイムトラベルで過去に戻って自分の親を殺したらどうなるのか?親がいなければ、自分はこの世に生まれていない。生まれていないなら、タイムトラベルだってできないことになる。
この矛盾は「親殺しのパラドックス」といい、かねてより議論されてきた。ある人が過去に戻ってそのタイムトラベルを不可能にするよう行動したとしたらどうなるのか?
オーストラリアの物理学者はこの矛盾に数理物理学を使って答えを導き出した。結論から言えば、過去を変えても未来は自動修復されてしまうという。
スポンサードリンク
親殺しのパラドックス
「親殺しのパラドックス」は、タイムトラベルにまつわるパラドックスで、SF作家のルネ・バルジャベルが著作「Le Voyageur Imprudent(軽はずみな旅行者)」(1943年)で描いたものだ。
英語では 「grandfather paradox(祖父のパラドックス)」と呼ばれており、「ある人が時間を遡って、血の繋がった祖父を、祖母に出会う前に殺してしまったらどうなるか」というものである。
そうすると、タイムトラベラーの両親のどちらかが生まれてこないことになり、結果として本人も生まれてこないことになる。
ということは、存在しない者がタイムトラベルをできるはずがなく、祖父を殺すこともできないから祖父は死なずに祖母と出会い、彼が生まれる。
すると、やはり彼はタイムトラベルをして祖父を殺すと、堂々巡りになってしまうという論理的パラドックスだ。
Pixabay
過去を変えても、未来は元通りに自動修復される
『Classical and Quantum Gravity』(9月21日付)に掲載された研究でも、この親殺しのパラドックスが扱われている。
オーストラリア・クイーンズランド大学の物理学者によれば、過去を変えてもその後の出来事によって修正されてしまうという。要するに、過去で何かをしても、その後の歴史は変わらないというのだ。
一般相対性理論は「時間的閉曲線」を予言している。それによると、出来事は同時に過去と未来に存在することができ、物体は時空をループすることで出発した時点に戻ってくることが可能なのだという。
つまり理論上、観測者は過去へ戻り、過去に干渉することできるということになる。ゆえに親殺しのパラドックスは、ただの思考実験というわけではない。
ジャーメイン・トバー氏らは、このパラドックスを解決するために「ビリヤードボール・モデル」を利用した。このモデルは、因果関係をぶつかり合うビリヤードの球に、円形のビリヤード台を時間的閉曲線にたとえたものだ。
あなたが円形の台の上にある球を1つ突いたとする。すると球は勢いよく転がり、特定のパターンでほかの球と衝突するだろう。
Pixabay
もし、どこかのタイミングでこの球に干渉して進路を乱してやったとしたらどうなるのか?
トバー氏らの計算によれば、ほかの球との衝突によっていずれは元の進路に修復され、やがては同じ位置と速度に戻るのだという。結局、あなたの干渉などなかったことになる。
過去に戻っても、未来が変わるほど重大な変更はできない
このモデルが示しているのは、過去にタイムトラベルできたとしても、未来が変わってしまうほどに重大な過去の変更はできないということだ。
親殺しのパラドックスについて言うなら、あなたが過去で親を殺そうとどんなに頑張ったところで、何らかの邪魔が入り、親は絶対に助かるということになる。
例えばコロナパンデミックについてトバー氏はこのようにコメントする。
感染者が出ないよう食い止めようとします。ところが、そのせいで、その人は感染してしまうわけです。あるいはゼロにできたとしても、ほかの人が感染するでしょう
なんかもう、運命の定めに従うしかなさそうだ。過去のことは振り返らず、未来へ向けて今何ができるかを考えた方が得策なのかもしれない。
タイムリーにも私は今、「東京卍リベンジャーズ」というタイムスリップ系漫画にハマっているのだが、主人公が中学時代に何度も戻って過去の修正を試みており、まだ連載中なのでどうなるかはわからないが、できることならフィクション作品では、明るい未来に変更されることを望む今日この頃の私なんだ。
Reversible dynamics with closed time-like curves and freedom of choice - IOPscienceReferences:fox5ny / indiatimes/ written by hiroching / edited by parumo
https://iopscience.iop.org/article/10.1088/1361-6382/aba4bc
あわせて読みたい
過去に行っても歴史は大きく変わらない? バタフライ効果は存在しないことが量子タイムトラベルのシミュレーションで判明
タイムトラベルは実現可能なのか?理論上のいくつかの方法とパラドックス
過去にタイムトラベルすると、ドッペルゲンガーが生まれ自己消滅の道をたどるとする思考実験(米研究)
時間は流れてはいない。止まった状態で現在・過去・未来が同時に存在している。「スポットライト理論」(米研究)
タイムトラベルの実現に近づいたのか?ブラックホールを利用したワープ航法で光速より速く移動できる(米研究)
この記事が気に入ったら
いいね!しよう
いいね!しよう
カラパイアの最新記事をお届けします
「知る」カテゴリの最新記事
「サイエンス&テクノロジー」カテゴリの最新記事
この記事をシェア :
人気記事
最新週間ランキング
1位 5101 points | 犬を引き取りに来たら猫がついてきました。施設に出向いた女性に子猫が猛アピール(アメリカ) | |
2位 3207 points | ベンガルキャットの「ばぁばですよ、はじめまして!」愛娘が産んだ孫たちと初めて対面するおばあちゃん猫 | |
3位 2855 points | 保護施設で少年にロックオンして16年目。20歳となった猫と青年の絆は今も変わらずソウルメイト(アメリカ) | |
4位 2715 points | 目撃者多数!上空で光を放ちながらホバリングする謎の円盤型飛行物体(アメリカ) | |
5位 2322 points | 自動車ディーラーに足しげく通い続けた野良犬、店に引き取られマスコット犬に(ブラジル) |
スポンサードリンク
コメント
1. 匿名処理班
元の世界線にも戻れないってことか
2. 匿名処理班
その理屈でいうなら未来からみた過去である現在も
なにか干渉しようとしたところで未来や運命は変えられないよね
3. 匿名処理班
厨二こじらせてるわけじゃないが過去を修正した時点で別の世界線に分岐するほうがまだ浪漫ある。
修正された未来とされなかった未来が多重存在しててもいいんじゃないかなぁ
4.
5. 匿名処理班
エンドゲームで例えてくれ
6. 匿名処理班
そもそも過去に行けない
7. 匿名処理班
3行で頼む
8. 匿名処理班
ドラえもん時代だと既に修復技術確立しており
簡単に出来そうだと思う
9. 匿名処理班
今のところ歴史にとんでもない矛盾が見つかったりとかしてないみたいだから、とりあえず未来においてもタイムトラベルは実現不可能なんだろうね
10. 匿名処理班
「親を殺した時点で自分が消滅」ではダメなのか?
最終的な未来が変わらないとしても
そこに至るプロセスは辻褄を合わせるためにいくらでも変わるはず。
それが極端な干渉であればあるほど、未来でさえ変化があると思う。
「運命」みたいなものに縛られて何一つ改ざん出来ないとすれば
未来に至る可能性が分岐せず、
たった一つしかないということになってしまう。
「最初から決まっている」みたいな。
11.
12. 匿名処理班
どうやっても起きたことはそのままで、過去は変えられないってのは分かるんだけど、
どんなに殺そうと頑張っても絶対に祖父は死なないってのは無理があるような…
13. 匿名処理班
歴史的な大きな流れは変えられないだろうけど(どこの国が勝つとか原爆が開発されるとか)個人的な小さな流れは変わるんじゃ無いかな。
例えば歴史にほとんど影響ない1兵士の生死とか。
親殺しや祖父殺しはその小さな流れだと思うから変わると思う。
記事の学者の論で例えるならビリヤードのわずかな機動のブレ。
ブレはやがて修正され大局には影響ないけど、ブレが起きたことは事実。
そのブレこそが個人の些細な生死。歴史に影響の無い範囲での生死。
14. 匿名処理班
存在の希薄化によって過去には手出しが出来ない、存在は現在そのものに縛られていて過去に戻る手段はあっても過去に手出しは出来ないんだよ、幽霊と呼ばれているのは未来人で現在に来ていても存在は未来に縛られている
15. 匿名処理班
「過去を変えられない」と「過去を変えても未来は変わらない」は同列に議論できないと思うが。
個人レベルでない歴史の修正力とかならまだ話は分かる。
16. 匿名処理班
未来すら決まっていて変えることはできないっぽいね
変えたと思った未来は元々そうなることが確定してたっていう
17. 匿名処理班
多世界解釈と同じくらいメジャーな説じゃん
何を今更
18. 匿名処理班
過ごしてる時間を遅くする事は出来るが、過去には戻る事ができない派のボク
19. 匿名処理班
未来を変えれても過去にいた人にメリットないでしょ
20. 匿名処理班
そりゃ未来改変によって存在しなくなったものは漫画みたいに薄くなって消えていくわけじゃあるまいし無理に決まってるだろ
まあタイムトラベル自体が無理に決まってるけど
21. 匿名処理班
プリデスティネーションっていう映画がオススメ
過去を改変したために永遠のループに落ちるSF映画
22. 匿名処理班
唐突の漫画紹介
23.
24. 匿名処理班
>>7
行く
だけ
無駄
25. 匿名処理班
つまりループ物やタイムトラベル物よりも異世界物のほうが現実的って事だな?
26. 匿名処理班
なんかいろいろ考えちゃうよね
検証できないから与太の域を出ないけど
27. 匿名処理班
時間旅行者の加えた変化が、その出発時点まで波及しないんだよ
28. 匿名処理班
時の流れが川であると考えるなら、下流である過去に行っても上流に影響を与えるのは極めて難しいのが理解できる。でも人間は過去の積み重ねで今があると「思い込んでいる」から、それが理解できない。つまり人の思考は時とは逆に、過去から未来へと流れている。
29. 匿名処理班
雷電哀れ
30. 匿名処理班
それに極端に言えばお爺さんどころか地球が無くなっても、それでも太陽は銀河の中を回っていて…と、どんどん大局で見れば小さな変化は誤差の範囲になっちゃうしね
31. 匿名処理班
親を殺したら消滅するからそもそも発想して行動する奴は存在しない
ので観測しようがないのでは
32. 匿名処理班
これガチだったらドラえもんマジですげぇな。まんま「歴史の修正力」じゃん。
33. 匿名処理班
そもそもタイムトラベルの条件もわからんのに
出来ないと結論できるのかな?
34.
35. 匿名処理班
この手の話は何度議論するんだろう?
アインシュタインが過去、未来は幻想にしか過ぎないって言ってるじゃん
アインシュタインの考えを元にしたブロック宇宙論だと、並列に過去は過ぎ去らず、未来はもう既にあるけど、人間は「今」という瞬間しか感じられない。
時間ってのは川みたいに流れてる訳じゃなく、長い長い固まった棒みたいな物で、「瞬間」は断面にしかすぎない。映画のコマみたいに断面が連続してるから流れてるように感じるだけで
、映画のフィルムは流れてる訳じゃなく、固まった物だけど流れてるように錯覚している。
仮に、その断面を飛んで別な断面へ移動出来たとして、そこで何かしらのアクションを起こしたとしても、それは長い長い宇宙の始まりから終わりまで中にある既定事項の一つなので、パラドックスなんて起こりようが無いし。
36. 匿名処理班
タイムシップ(タイムマシンの正当続編)の多世界解釈的な考え方の方がまだ感覚的には受け入れやすいけど、アレも大局的には”主人公個人の経験した過去の歴史そのもの”は変わってないんだよなぁ
37. 匿名処理班
ひとりでやろうとするから、ダメなんじゃないの?繋がりがある人達が複数人で行って、ひとつの目的を達成…とかでも、ダメ?
38. 匿名処理班
>>10
「今」に至るプロセスが「歴史」なのであって、同じ結果に終わろうとプロセスが違うことで「今」に全く影響を与えないのはおかしいような気もする。
過去を変えるためタイムトラベルをした人も含め地球上には多くの「個人」とそれをまとめる「社会」が存在していて社会の単位が大きければ大きいほど個人の行動の影響は小さいが、例にあるような個人の「親を殺す」なども含め個人の人生に対して大きな影響を与える出来事など、プロセス中のどれを重要な「結果」とし「変わらなかった」と結論づけるのか曖昧だ。
同じ「結果」を導くためのプロセスとして、軌道修正するためには「新しい出来事」が生まれてしまう。
水をこぼした今を変えるため、タイムマシンで水の入ったコップを机の内側にずらしたが犬が来て結局水をこぼした場合、「犬が来る」という新しい出来事が生まれてしまう。
39. 匿名処理班
一般人ならともかく、ノーベル賞受賞者並みの人・歴史の教科書に出てくる国家元首は流石に大きな影響を与えるはず。
40. 匿名処理班
世界線収束ってことか?
41. 匿名処理班
残念、間違い。
俺は真実を知っている。