1 :1◆0sA8GVLJwJ07 20/10/24(土)14:42:49 ID:XZw

チュニジアの砂漠でラクダと一緒に1,311km旅した話の最終回やけど、今回は少し長い話になると思う

後半では大学時代荒れてた頃の昔話とか、持病の発作の話とか、ギフテッドの話とか、ワイがどんな思いで冒険してきてたかの裏話とかもするで

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【最初の記事】砂漠の民に憧れて、ラクダと一緒に砂漠を旅することにした冒険家だけど
http://karukantimes.com/archives/51739568.html





1 :1◆0sA8GVLJwJ07 20/10/24(土)14:42:49 ID:XZw

【お知らせ】
スレやまとめで沢山の方が応援してくださったおかげで、新刊(書籍)の発売が決定したで!
ありがとうな!

メインはキルギスで馬と旅した時の話で、2020年10月29日に新潮社から発売や!

幼児期からのワイの生い立ちや家族との関係、強くなりたいと思った動機(このスレの内容とは被らん)、2回目キルギス行った時の仲間たちの後日談とかも書かれてて、
表紙のドット絵は何とあのMOTHER3(ネスとか土星さんとかのゲーム)を手掛けた今川伸浩様がデザインしてくださったものやで!
表紙や扉、目次のデザインは新潮社装幀室っていう歴史ある最強デザイナー部隊が担当して下さったで!
旅路をイメージしやすいように、冒険地図イラストや登場キャラ紹介も入っとる

購入者特典として作中に登場する村や湖の4Kドローン動画が付いとるから、ぜひ見てや!
あと、買って下さった方はぜひ表紙カバー外した下側の印刷も見てみて欲しいで

なんせめっちゃ気合の入った一冊なんや

『草原の国キルギスで勇者になった男』
Amazon:
https://www.amazon.co.jp/dp/410353611X/

楽天:https://product.rakuten.co.jp/product/-/a0903e765a3777b9afec6ecc426ff4e6/

※当時のgif画像





3 :1◆0sA8GVLJwJ07 20/10/24(土)15:01:08 ID:XZw


2020年2月10日
北アフリカのチュニジアで南へ向けて歩いていると、途中、塩湖に行き当たった
塩水なのでオアシスのような草木は無く、シンプルで本当に素晴らしい景色だった

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さらにしばらく進むと、50頭以上の大規模なラクダの群れに出会い、そのうちの一匹が執拗にシャムスを追いかけてきた
発情しているようで、ヨダレを垂らしながら低い声で唸り、シャムスの尻に顔を近づけたりしている

かがんでそのラクダの下腹部を確認すると、付いていた
オス同士だ

絵面が…
汚い…

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4 :1◆0sA8GVLJwJ07 20/10/24(土)15:12:35 ID:XZw

群れがいる草原を抜けても尚そのラクダは付いてこようとしたが、俺が軽く威嚇すると立ち止まり、残念そうに引き返していった

…どっちみちオス同士だから、交尾できないからね…?

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夕方になり、途中で出会った遊牧民の方たちに誘われて、この日は草原にポツンと建っている遊牧の詰め所?のようなところで寝ることになった

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その遊牧民の中にはさっき見かけたラクダの群れの飼い主もいて、明日朝ラクダのミルクを搾りに行こうと誘ってくださったので快諾し、就寝





11 :名無しさん@おーぷん 20/10/24(土)17:28:34 ID:9z2

コブかたいんか??





14 :1◆0sA8GVLJwJ07 20/10/24(土)17:33:31 ID:XZw

>>11
せやなぁそこそこ固い
脂肪が入ってるから筋肉よりは若干柔らかいけど、良く触るお腹は中ほとんど内蔵やしこぶより柔らかいな
それ以前に皮膚がめっちゃ分厚いからそれで固く感じるとこもあるかもしれん

コブの毛はふわふわや





17 :1◆0sA8GVLJwJ07 20/10/24(土)17:40:52 ID:XZw

翌日朝、乳搾りをしに行く飼い主に同行してラクダミルクを飲ませてもらうことができた
牛乳より濃厚で甘くて美味しい

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その後は詰め所へ戻って準備をして出発





19 :1◆0sA8GVLJwJ07 20/10/24(土)17:47:37 ID:XZw

写真は乳しぼりを終え、食事をするために砂漠へ放たれるラクダの群れ

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夕方になり寝床を探していると、大きな門があって馬が何頭かいる、ちょっとした家畜の世話所のような場所を発見したので、そこにいる男たちに事情を説明し、今晩はそこで寝させて貰えることになった
どういった施設なのかはよく分からなかったけど、どうやら観光客が訪れることもあるらしい

次の日
今日はいよいよチュニジア南部の町、タタウィンに到着する
タタウィンは、チュニジアの砂漠に隣接している町としてはドゥーズやトズールに並んで有名なようなので楽しみだ

タタウィンへの道は曲がりくねっていて、道路沿いに進むとかなり時間がかかりそうだったから、ほぼ直線で峠を越えてショートカットをすることにした
実は数日前から時々道路以外の場所を歩くようにしていて、シャムスがきちんと進めるかどうかの確認は済ませてあったのでシャムスにとっても問題はないはず

乾燥地帯を突っ切るぞ!!!

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22 :1◆0sA8GVLJwJ07 20/10/24(土)17:58:53 ID:XZw

さて、道路を逸れて峠へ向かう
最初は轍があり車輪の後がはっきりと残っている道が続いていたものの、しばらくすると途切れ、峠の野道になった

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23 :名無しさん@おーぷん 20/10/24(土)17:59:01 ID:azf

前のスレで見た
シャムスと星空の写真また見たいな





28 :1◆0sA8GVLJwJ07 20/10/24(土)18:02:31 ID:XZw

>>23
今回も星空の写真撮ったから後々貼るで!

ラストでは、だーれもおらんでかい砂丘地帯を野宿しながら越えてくで!!!





24 :1◆0sA8GVLJwJ07 20/10/24(土)17:59:10 ID:XZw

とはいえ動物が通り道にしている細い筋が無数にあったから、キルギスでの経験を活かせばどの道を通れば一番良いかははっきりと分かった
疲れないよう、遠回りになり過ぎないように、小動物の足跡や糞などを手掛かりに楽な道を辿って峠を越える
しばらくすると見晴らしの良い場所に出てタタウィンの町も見えて来たから、シャムスの食事時間も兼ねて休憩

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朝、通りがかった集落の雑貨屋で買ったジュース
まだ少しだけ冷たいから肌にあてるとひんやりする

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27 :名無しさん@おーぷん 20/10/24(土)18:00:45 ID:coe

なんか大層なスレで草
初めて覗いたんやが旅の報告スレって認識でええんか?





30 :1◆0sA8GVLJwJ07 20/10/24(土)18:07:20 ID:XZw

>>27
せやな、途中で昔の自分語り入るけど、本筋は旅の写真スレやで
ただ、ワイがスレ立てるようになった理由の一つが自分と似た奴探すことやったから、ワイの言動やギフテッドとかにピンとくる人は話聞いて欲しいで





32 :名無しさん@おーぷん 20/10/24(土)18:07:50 ID:coe

>>30
サンガツ、了解や





35 :1◆0sA8GVLJwJ07 20/10/24(土)18:18:40 ID:XZw

そして、出発

道なき道を進むという今までほとんどやったことがないチャレンジだったにも関わらず、シャムスは落ち着き払っていてきちんと指示を聞いてくれた

結果、難なくタタウィンに到着!!

さっそく並走しながら質問を振ってくるラジオ記者などメディアの取材を受けつつ町へ入って休憩できる場所を探す
(※外国人のラクダ旅が受けたらしく、チュニジアでは日本よりも有名になったから、だいたいどこの町行ってもラジオやテレビの人らが取材に来てたんや)

ピザ屋を見つけたので少し休憩

100円200円で食えるツナピザ美味いンゴ

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シャムスちゃんもお疲れやね

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58 :名無しさん@おーぷん 20/10/24(土)18:46:25 ID:af3

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62 :名無しさん@おーぷん 20/10/24(土)20:14:04 ID:af3

休憩中、ピザ屋の店主イーサが声をかけてきてくれ、店の2階にある部屋に泊まらせてもらえることになった
ちなみにシャムスはピザ屋向かいにある建設中の建物の敷地内で明日朝まで預かってもらえることになった
工事現場で預かってもらうパターンは今回の冒険では今までも何度かあったけど、しっかり柱などに繋いでいれば安全だからありがたい

建設現場で働いている方々がドライブしようと誘ってくれて、タタウィンの街をぐるりと回ってくれたおかげで、おおよその街の雰囲気を知ることができた

町の中心部
思ってたほど都会ではなかったけど、スーパーとかあるから住み心地は良さそうな町やった

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正直なところ砂漠の町…という感じはあまりなく、少し大きめの普通の町といった感じだ
このあたりは峠や山が多いので、乾燥していてもあまり砂漠感は無い
中心部はたくさんの車が路上駐車されていて、所々二列になっているので道が狭く、シャムスと通るのには不向きそうだった

明日は昔ながらのオリーブ工場があるという、シネンニと呼ばれる村に行く予定なので楽しみだ

【リアルRPG 砂漠編40】目指せ砂漠の街、タタウィン! チュニジアの砂漠で初めてのショートカットに挑戦!
https://youtu.be/cDbKfzlKoqk





63 :名無しさん@おーぷん 20/10/24(土)21:21:52 ID:XZw

朝、ピザ屋を出て工事現場で働く人達に挨拶をして、シャムスを連れ出発

安全確認! ヨシ!!

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できるだけ車通りの多い道を避けて町を抜ける

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64 :名無しさん@おーぷん 20/10/24(土)21:29:50 ID:XZw

タタウィンは真っ直ぐな道が少なく曲がりくねっている町なので、地図アプリを確認しながらシネンニへとつながる山道へ

ちなみに町の出入り口には境界を示す看板がある

一応県境の看板があることもあるけど、基本は町ごとに出入り口に看板立てて認識してる感じやな
警察の検問とかもその辺にある

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山道へ入ってしばらくシャムスに乗って進んでいると、偶然シネンニの宿のオーナーの車とすれ違い、その際にオーナーは俺を宿へ招待してくださると言ってくれた
シネンニでは泊まるあてが無かったから、かなりありがたい

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65 :名無しさん@おーぷん 20/10/24(土)21:41:47 ID:pxa

ええなぁ ワイもこんなとこ行ってみたいわ





66 :名無しさん@おーぷん 20/10/24(土)21:55:16 ID:XZw

>>65
チュニジアめっちゃ良かったで!
砂漠があるだけやなくて海もあるし、リゾート的な感じのとこも多くて町がお洒落やねん

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67 :名無しさん@おーぷん 20/10/24(土)21:55:20 ID:XZw

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68 :名無しさん@おーぷん 20/10/24(土)22:13:12 ID:XZw

つづき
その後は特に大きな出来事もなく山を進み、シネンニに到着

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シネンニは集落が2箇所に別れていて、宿がある集落は奥にあるようだったので、ここでも道を使わずショートカットをすることにした
実はこの冒険に出発したばかりの時はシャムスは道路以外を進みたがらず立ち止まることもあったけど、今は連携度が上がったおかげで俺が決めたルートをずんずん進んでくれるようになった

朝出会ったオーナーの宿、ケンザシネンニへ近づくと、気さくなスタッフが
「日本人だ! ようこそ!(日本語) こっちだよ!」
と声をかけてくれた

案内されたホテルの部屋は、洞窟のような造りのめちゃくちゃ面白い部屋で、温水シャワーやトイレもしっかりついている豪華な所だった。

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夜は観光で同じ宿に泊まるフランス人のグループやマダムと話をして過ごす
フランス人グループの中の女性が「ショートムービーを作っているからいくつかの簡単な質問に答えてほしい」と言ってきた(よくあるパターンだ)ので快諾したところ、「愛とは何だと思う?」という非常に難しい質問が混ざっていて辟易した





69 :名無しさん@おーぷん 20/10/24(土)22:24:35 ID:pxa

>>68
草 なんで答えたんや?





71 :名無しさん@おーぷん 20/10/24(土)22:37:16 ID:XZw

>>69
「愛…は、『相手の立場になって思いやる気持ち』だと思うから、つまり、愛は一人では育めない」
みたいなこと言うたで

そのインタビューがどこでどういう風に使われたかは知らんw





72 :名無しさん@おーぷん 20/10/24(土)22:40:10 ID:tgK

資金はどうしてん?





73 :名無しさん@おーぷん 20/10/24(土)22:41:39 ID:tgK

ええなああああ
楽しそう





75 :名無しさん@おーぷん 20/10/24(土)22:53:36 ID:XZw

>>72
>>73
契約社員で働いたり、リモートで翻訳フリーランスしたりして貯金して行くんや
いうても、往復の飛行機代や食費とか含めてもこれ25万円もかかってへんけどね
今はお金尽きてしもうた…
良ければ本買ってクレメンス…

これ系は、全ての責任は自分で取らなあかんから判断力いるけど、その代わり果てしない自由がそこにはあるで!





76 :名無しさん@おーぷん 20/10/24(土)22:57:12 ID:tgK

25万でこの体験できるならやっすいな





81 :名無しさん@おーぷん 20/10/24(土)23:08:08 ID:XZw

>>76
せやせや
景色めっちゃ綺麗やしおもろい人一杯おって出会えるし動物かわえぇし自然凄いし、やる前の不安と緊張からのやり切った時の達成感で出る脳汁(テストステロンかな?)の量半端なくて死ぬほど気持ちえぇし

それが金額でいうと25万円以下なんやから、やめられへんでw





74 :名無しさん@おーぷん 20/10/24(土)22:42:26 ID:T2K

あれ! ピグミー族のとこ行ってた人?
めちゃくちゃあれ面白かったで!





78 :名無しさん@おーぷん 20/10/24(土)23:00:28 ID:XZw

>>74
懐かし過ぎて草

これやねw
アフリカの熱帯雨林でピグミー族と一緒に自給自足生活することになったバカだけど
https://hayabusa.open2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1464874060/





77 :名無しさん@おーぷん 20/10/24(土)23:00:11 ID:xXa

上温湯君かと思った





84 :名無しさん@おーぷん 20/10/24(土)23:11:23 ID:XZw

>>77
上温湯さんの『サハラに死す』の文庫本、このチュニジアに持ってったで!
なんとなくであって根拠はないんやけど、出発する段階では、これ無事に生きて終えれるとは思えんかったんや





100 :名無しさん@おーぷん 20/10/25(日)00:11:44 ID:shk

つづき

次の日、早朝、シャムスと一緒に行きたかったオリーブ圧搾工房の見学へ

実はこの圧搾工房の動力源は、ラクダだ
チュニジアでも数少ない文化遺産とも呼べるものだった

暗い円形の工房内をラクダがぐるぐると歩き、装置を回すことで圧搾が行われるという仕組みだ
シャムスの社会経験に良いんじゃないかと思った(色々な経験をさせていたほうが、冒険後の進路の選択肢が増える)ので連れてきたけど、暗いところを怖がるシャムスには少し難しそうで怪我のリスクもあったのでやめておくことにした

その後はラジオタタウィンから俺の撮影をしにきたという女の子たちと撮影をしてから出発
撮影中は「ふと目に入ったシネンニの景色を楽しみつつ宿へ戻って」など細かい指示がありその通りに動いていたのでなんだか恥ずかしく、ちょっとだけ疲れた

出発後はまたショートカットして峠を越え、ドゥイレットという町へ





101 :名無しさん@おーぷん 20/10/25(日)00:14:17 ID:shk

ドゥイレットは旧ドゥイレットと新ドゥイレットに分かれていて(チュニジアではよくあること)、旧の方は歴史的な建物が山道沿いに立ち並んでいて中々壮観だった
かなり雰囲気のある住まいだけど、ここで暮らしている人たちもいるようだった

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旧ドゥイレットは少し山奥にあり、ショートカットをしなければ訪れられなかったようなのでなんだか得をした気分だ

その後新ドゥイレットへ行き寝床を探す
この日はありがたいことに空き家になっている小さな家で寝させてもらえる事になった
さらに栄養バランスの整った食事までいただけて、めちゃくちゃ有り難かった

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シャムスはその空き家の前の雑木林に繋いだので、食べ物が豊富で嬉しそうだった

【リアルRPG 砂漠編41】岩山奥地の秘境、シェニニ! ラクダが働くオリーブ工場へ!
https://youtu.be/y62DOpdk_-E





102 :名無しさん@おーぷん 20/10/25(日)02:51:13 ID:shk

翌日昼前、なぜかこのタイミングでタタウィン警察に取り調べを強要されタタウィン市街地へ連れて行かれた

どうしてこのタイミングなのか、意味が分からない
タタウィン到着時にも何人もの警官とは会っていたし中心部に近い場所では後ろからついてくる警察車両すらあったのに、どうしてその時はスルーしておいて今連行なのが、分からなかった
シャムスはタタウィンから離れた道半ばで放置になってしまうが、それだけは絶対に許さないと強く言った結果、警官一人がシャムスを見ることになった

入り口に鉄格子が嵌められている建物へ連れていかれ、4時間
突っ込んだ質問などはされず、警察がやったことといえばパスポートの情報を書き写しただけだった

返ってきたパスポートは少し折れ曲がってしまっていて、ICページの端が折れて割れていた

道路上の職質でも済むような内容の、ほとんど嫌がらせとも言えかねない拘束を終え、夕方シャムスと合流
シャムスは無事そうだ

どっと疲れたので、写真撮影をリクエストされないよう人目を避け、次の村ビルアミールへのショートカットを試みる

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とはいえ村は遠く、今からだと日が暮れてしまうのは確実だった
かといってこの辺りでテントを張るのは危険だ





103 :名無しさん@おーぷん 20/10/25(日)02:53:16 ID:shk

結局、途中で長い休憩をして、月が出てから出発することにした

半月でも月が出れば影ができる位明るいし、この辺りにはゴミは無いのでシャムスが足を怪我することも無いだろう
辺りは平坦で砂漠ではあったものの、乾燥に強そうな硬い植物は周りにいくらか生えていた

少し寒かったので、座って休んでいるシャムスの肩のもふもふに身を預けて仮眠を取る

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さあ、少し休んでから、月の砂漠をシャムスと進もう

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【リアルRPG 砂漠編42】パスポートのICページを折られました… 長時間拘束で村へ着けなくなり、夜の砂漠へ…
https://youtu.be/NHOglv8Cr2w





104 :名無しさん@おーぷん 20/10/25(日)10:38:24 ID:shk

そして深夜になって、月が出て来た

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105 :名無しさん@おーぷん 20/10/25(日)10:44:19 ID:shk

月明かりに照らされた道を、シャムスに乗ったり一緒に歩いたりして進んでいく
ビルアミールまでは15kmほどだ

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静かな砂漠を進んでいるとだんだん楽しくなってきたので、歌を口ずさみながら機嫌よく進む
どうやらシャムスは俺よりもはっきりと道が見えているようで、手綱を引いて一緒に歩いている時よりもシャムスに乗ってある程度シャムスに任せて進んでいるときの方がスムーズに進むことができるようだった

夜明け前、ビルアミールの近くに到着したので、そこでまた仮眠を取る
今行っても誰もおらず、イスラム教のお祈りの為に起きてきた人に怪しまれるだけだろう

しばらくして明るくなったのでからビルアミールへ行き少し休むも、村全体的に長居できる雰囲気では無かったから昼過ぎ頃に出発することにした

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近頃はコロナ起因のアジア人差別が始まっていたから、その影響もあるかもしれない





106 :名無しさん@おーぷん 20/10/25(日)10:46:16 ID:shk

とりあえず互いの腹ごしらえと、シャムスの餌の買い出しはした

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107 :名無しさん@おーぷん 20/10/25(日)10:49:36 ID:shk

次の目的地はオアシスがあるというクサールギレン、そしてその次はゴールのドゥーズだ
ここからだとドゥーズまで230kmほどあるものの、村らしい村はクサールギレンだけのようだった

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さて、いよいよゴールも近く終盤だ
ここからは道路は使わず、砂漠を抜けてショートカットしていくのが良いかもしれない

というわけでまずは山や丘に囲まれた砂漠地帯を抜けてクサールギレンを目指すことにした
ビルアミールからの道路を外れ、クサールギレン方面へ向けて山の谷間へ

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【リアルRPG 砂漠編43】月明かりを頼りに砂漠を突き進め! 極寒の夜砂漠!
https://youtu.be/bP0pPADt-vk





108 :名無しさん@おーぷん 20/10/25(日)10:53:13 ID:shk

どうやらここから先は谷の道が迷路状にあちこちへ伸びているようだったので、GPSで自分の位置をこまめに確認しながら進まないといけないだろう

谷へ入ってすぐの所でテントを張るのにちょうど良さそうな場所を見つけたものの、色々な可能性を考えシャムスと一緒にその場に座って待機し、しばらく様子見をすることに決定

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この辺りには真新しいヤギの糞が多かったので遊牧民の方がいるだろうと考えての判断だ
予想通り、しばらくすると谷の出口へ向けてヤギや羊の大群が少し離れた丘を通り過ぎていった

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遊牧民の方もヤギたちを追い立てる形で後ろからやってきたものの、明日の出発時間等を考えて敢えて接触せずやり過ごすことにした





109 :名無しさん@おーぷん 20/10/25(日)10:56:20 ID:shk

その後、辺りが薄暗くなってからその場にテントを張って野宿をする

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夜、テントにちっちゃいネズミが遊びに来たりしたので少し癒やされた
時々シャムスのようすを確認しながらまったり就寝

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110 :名無しさん@おーぷん 20/10/25(日)10:59:50 ID:shk

翌日朝、顔をあげてテント入口のメッシュ越しにシャムスの様子を確認して驚く

シャムスの周りの景色がちょっと霞んでいた
テントから顔を出すと、テントの外側がびしょびしょになっていて、いかに湿度が高い状態かが分かった
空もどんより曇っているようだ

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こんなことはチュニジアでは初めてで、しかもこんな砂漠でジメジメした気候に出会うとは思っていなかったけど、ひとまず大きな危険となる大型動物などは居ないはずなので、視界が悪くとも予定通り進むことにした
しばらく準備をしてテントを撤収してから、出発!

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111 :名無しさん@おーぷん 20/10/25(日)11:02:54 ID:shk

シャムスに乗ったり降りて歩いたりしながら、ひゅおおおという風の音と互いの足音だけの世界を、ゆっくりと進む

出発直後はまだ少し視界が悪く、今歩いているのが最善、最短のルートかの確信は持てなかったものの、むしろ心は普段以上に落ち着いていた
先のことは分からない方が面白いし、乗り越えられたときの気持ちよさをより一層強く感じることができる

しばらくすると見通しが良くなり、緩やかな丘が遠くまでずっと続いているのが分かった

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おそらく今日中にこの谷を抜けるのは無理そうなので、どこかでまた野宿する必要があるだろう
しばらく歩いているとトカゲを見つけたので、捕獲

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ネズミはカメルーンで食べたことがあったから昨日は見逃したけど、トカゲはまだ食べたことが無い
今日か明日、野宿時に焚き火で焼いて食べることにしよう





112 :名無しさん@おーぷん 20/10/25(日)11:07:17 ID:shk


そして、クサールギレンへの谷間の中間地点に当たる場所に到着

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しかしなんと、ここまで人里離れた土地であるにも関わらず、前方から羊やヤギの鳴き声が聞こえてきた

最寄りの集落は何十kmも離れているはずだけど、どうやらこんな所で遊牧をしている人がいるらしい…

※画質が低くて分かりにくいけど、画像中央少し右上の黒と白の点が羊とかヤギや

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【リアルRPG 砂漠編44】いざ、未知の新たな砂漠へ! 人里離れた砂漠の奥地で、なんと…!!
https://youtu.be/jYJJVFiEvxw





115 :名無しさん@おーぷん 20/10/25(日)13:10:45 ID:shk

どんな人が暮らしているのか興味が湧いたので、ヤギと羊の群れに合流し、その群れを誘導していた2人の男と話すことにした

タハールという同年代の男とアイメンという若者で、アイメンは10日ほど前に来たばかりでこの辺りのことはよく分かっていないらしい

タハール
「おう!
何だお前!
どっから来た!」

タハールは常に叫ぶように話、かなり声が大きくて語気が強い
おそらく怒っているわけではなさそうだけど、そう聞こえないこともない調子で話す


「日本から来てまして、ラクダと旅をしています
すみません、ここから離れた所でテントを張って寝る予定です」

タハール
「いや!
俺のテントに来い!
男2人で退屈してたから、大歓迎だ!!」

かくして、タハールの強い調子に押され、この日はタハールとアイメンが暮らすテントで寝ることになった

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タハールによると、この辺りには他の遊牧民はおらず、10日前にアイメンが来るまではタハールが1人で遊牧をやっていたそうだ
どうやらタハールは200匹のヤギ、羊を遊牧しているらしい

新鮮なヤギのミルクを分けてたくさん飲ませてもらえた

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116 :名無しさん@おーぷん 20/10/25(日)13:11:03 ID:shk

タハールは、「このヤリ○ンが! ち○こ!!(チュニジア語のスラング。おそらく日本での「クソ!」に当たる表現で、現地の若者はけっこうち○こち○こ連呼してる)」等と汚い言葉を叫びながらタハールは羊を追い立て、自分のテントの直ぐ側にある安全地帯へ羊たちを戻していた

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ワイも手伝うで!

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118 :名無しさん@おーぷん 20/10/25(日)13:13:54 ID:shk

その後、タハールは一匹のヤギを担いで隔離し、何やら作業を始めた
ヤギは明らかに異常な頻度で鳴いていたので何かの病気か…?と考えていたけど、どうやら陣痛だったらしい
小さなヤギの赤ちゃんが生まれ、生まれたばかりなのに母ヤギのミルクを飲み始めた

夕食はトマトとヤギミルクのクスクスで、これまで食べたクスクスの中で一番美味しかった

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タハールは何と17人兄弟らしく、国内外の多くの地域に血の繋がった兄弟がいるとのことだ
日本では中々考えられない大家族だ
タハールが常に大声なのは、16人もの兄弟に囲まれて暮らしてきたからなのかもしれない

夜、タハールたちが寝静まってからこっそりテントを出てシャムスの側で空を見上げる
朝とは打って変わって澄んだ空が星で埋め尽くされていて、ただひたすらに素敵だった

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【リアルRPG 砂漠編45】砂漠の奥地で暮らす方のテントへ! 子ヤギたちと濃霧の砂漠!
https://youtu.be/ZUriNdfF6D8





123 :名無しさん@おーぷん 20/10/25(日)16:23:57 ID:rmy

>>118シャムスと星空すごいキレイ





124 :名無しさん@おーぷん 20/10/25(日)17:31:49 ID:shk

>>123
昔のスレでも撮ったりしとったけど、
砂漠×ラクダ×星空
ってなんか夢があってすごい好きやわ

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122 :名無しさん@おーぷん 20/10/25(日)16:15:25 ID:shk

翌朝起きると、また濃霧が辺りを覆っていた
どうやらタハールによるとこの辺りは毎日こんな感じらしい

荷物袋に入っている草の残量が少し心もとなかったので、シャムスの前足を結んで遠くへ行かないようにしてから放置して周りの草を食べてもらうことにした
この辺りにはところどころに硬い草が生えていたので、シャムスはそれらに顔を近づけて見定めてから、ボリボリと朝ごはんを食べ始めた

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今日は昨日よりも少し早く霧が晴れ始めたから、昨日のように五里霧中を楽しむ時間はあまりなかった

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125 :名無しさん@おーぷん 20/10/25(日)20:22:47 ID:shk

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夕方、谷の出口、クサールギレンへ続く国道付近に到着
ここからクサールギレンまではあと20kmくらいだ

国道沿いでテントを張ると危険なので道から見えない所にテントを張ろうとしたものの、出口付近で遊牧をしていた年配の女性がかなり敵対的な雰囲気だったので野宿場所を変えることにした
その女性と話した際も特に何もしては来なかったが、経験上夜になってひと悶着ある可能性もあるので移動すべきだろう
さらに国道へ近づき、女性の暮らすテントから見えない所で野宿をすることにした

本当は今日焚き火をしようと思っていたけど、女性に居場所がバレる危険があるので断念することにした
明日の昼ごろにはオアシスについてしまうので、このままだと捕まえていたトカゲは食べる前に弱って死んでしまうだろう
すでにそこそこ弱っていたので、トカゲは逃してやることにした
バイバイ、トカゲ

命拾いしたな!!

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126 :名無しさん@おーぷん 20/10/25(日)20:42:37 ID:shk

夜明け前、国道横断しクサールギレンへ向かう

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国道沿いにあるいても良かったけど、国道をまたいだ向こう側は砂砂漠が広がっているようだったので、せっかくなので砂漠を抜けてクサールギレンへ行くことにした

やはり朝になると霧が出てくるようだった





127 :名無しさん@おーぷん 20/10/25(日)23:04:02 ID:shk

クサールギレンの近くでは、昨日までの谷とは全く違う綺麗な砂砂漠が広がっていた
植物も少しは生えていたけど、これまでの砂漠と比べるとかなり少ない

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いくつもの砂丘が重なり合って滑らかな曲線を描く、砂の世界
高さ数mの大きく盛り上がった砂丘をシャムスと一緒に越えていると、自分たちが小人になったような錯覚に陥る

実は世界の砂漠の殆どは岩砂漠で、砂丘があるような砂砂漠はほんの少ししか無い
とはいえ、やっぱり砂漠といえばこれだろう

死ぬなら砂漠、と決めている俺にとって、その不思議な空間は理想郷とも言えるものだった
例えば真夏、ここを訪れて遥か遠くへ彷徨えば、灼熱の太陽に灼かれて理想の死を迎えることができるんだろうか
シャムスとの砂漠の冒険に挑むことができ、既に生涯に満足している俺にとって、死に方はとても重要なことだ





128 :名無しさん@おーぷん 20/10/25(日)23:04:31 ID:shk

…けど、今はまだ死ぬべきときではないらしい
村も近く、体力も装備も十分だ

さあ、クサールギレンへ行こう

そうは思いつつも、高まる心を抑えきれなかったので、笑いながら砂丘をガシガシと走って越えていく
シャムスに乗って砂丘を越えることもできるけど、やっぱり自分の足で踏みしめないと!
自分の足で砂を踏みしめて走ればより一層砂丘を感じることができるし、息切れをすれば自分が生きているってことをより一層強く感じることができる

一歩一歩、歩くたびに砂に足が吸い込まれる
それに加えて急な上り下りも合わさるので、これまで歩いてきたどんな場所よりも歩きにくい

なんて不自由なんだろう
砂丘は俺の自由を奪い、俺が進むのを阻止しようとしている
楽しくて仕方がなかった

まだまだ!
この程度じゃ俺は負けない!
余裕で走れる!!

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129 :名無しさん@おーぷん 20/10/25(日)23:08:11 ID:shk

至福の時間を過ごしている間にクサールギレン、オアシスのナツメヤシ畑はどんどん近づき、そして遂に到着
どうやら宿もありそうなので、ここはゴール前の最後のセーブポイントだ

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クサールギレンの中心部はかなり観光地化されていて、オアシスの温水の池では水浴びをする観光客がたくさんいて、周りはカフェや雑貨屋で囲まれていた
その近くには砂漠を走り回る為の小型の4輪車もある

村を歩いていると、近くのレストランにいた男から声をかけられた

「大いなる幸せは?」


「向こうからやってくる!!」

2ヶ月ほど前、チュニジアで大流行していた言葉だ
ドゥーズでは俺がそれを言った動画が少しバズったのでドゥーズでは俺は有名人だった
遂にドゥーズ付近まで帰ってきたということだろう

声をかけた男はなおも話し続けた
少し距離があったけど、よく見るとかなり見覚えのある顔だ

…あぁ、ドゥーズ(出発地点)の宿のスタッフのムハンマドさんか!





130 :名無しさん@おーぷん 20/10/25(日)23:15:10 ID:shk

ムハンマドさん
「おぉ、『ゼーヒ(幸福)』じゃないか!
ここまでよく来たなぁ!
これからドゥーズへ行くのか?
頑張れよ!」

「幸福」というのは俺のドゥーズ宿でのあだ名だ
どうやらムハンマドさんは現在ここのレストランで働いているらしい
ムハンマドさんは俺にレストランで使っているフランスパンを4本ほど分けてくれた
この辺りでは家畜用の草は入手困難なので、シャムスの食料になるだろう

久しぶりに知り合いに会って驚きつつ、宿(といっても寝床は敷地内に設置されたテントという、簡易的な宿だ)にチェックイン

その後は水浴びを少ししてから同じ宿に泊まっているフランス人のマダムと雑談をし、就寝

そして1日だけ休んで、俺は最後の砂丘越えに挑むことにした

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いよいよ、ラスボスの最終形態だ
砂砂漠を越えて砂漠を100km以上彷徨い、ドゥーズへ!!

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131 :名無しさん@おーぷん 20/10/25(日)23:21:07 ID:shk

2020年2月21日
朝5時過ぎ
シャムスに穀物をやってから、出発

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今日は35km進む予定だ
穀物をめいっぱい積んでいてシャムスの負担が大きいので、今日はシャムスに乗らずに歩いて砂丘を越える

クサールギレンからドゥーズへは直線で80km位だけど、それだと少し物足りない(クサールギレンまで突っ切って来た霧の砂漠は歩行距離86kmほどだった)ので直線では向かわず、
まずはクサールギレンから西へ進んでから北へ直角に曲がるようなルートでクサールギレンへ行くことで100km以上砂漠を彷徨うことにした

出発後すぐに砂丘地帯に入ったので、砂丘の山から山へルートを模索する
といっても山同士の高低差が激しいので、登ったり降りたりを何度も繰り返さないといけない
少しでもシャムスが楽に歩けるようにと歩きやすい道筋から少し逸れたところを歩くせいで、俺の足は砂の下へと大きく沈み、一歩一歩は重たいものになった
同じように見える砂丘でも、足が沈む柔らかい砂と硬い砂があるようで、ぱっと見ただけでは分からないので神経を使いながら足を運んでいかないといけない

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132 :名無しさん@おーぷん 20/10/25(日)23:24:26 ID:shk

これまで歩いたどんな山道よりもハードな道だったので、数時間歩き続けると息が乱れてペースが落ちてきたものの、俺の心は感動に大きく揺さぶられていた

誰も居ない、砂だけの世界
いくつもの砂丘が折り重なっているせいで見通しが悪く、あと何km歩けば抜けられるかも分からない砂丘地帯
植物は少しだけ生えているものの、水はなく、キリアツメゴミムシダマシという砂漠に対して適した進化を遂げた虫(背中に疎水性/親水性の凸凹があって早朝湿度が高い時間帯に水を得ることができる虫)以外に動くものは無かった

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さぁ、あともう少しでドゥーズだ…!
シャムスとのこの冒険も、この砂丘地帯を越えれば遂に終わる

自分の存在についても、どうやら今回の冒険で決着は付いた

周りを取り囲む砂丘を眺めながら、自分の過去についてゆっくりと思いを巡らせる

29歳の俺は、記憶をなぞって現在からどんどん遡り…
大学時代のことを思い出していた





133 :名無しさん@おーぷん 20/10/25(日)23:26:13 ID:shk

スマン、当初の予定では
大学男子寮で個性開発編 → 休学して東京で親友たちと起業準備編 → 闇落ちナンパ修行編…
と書こうと思ってたんやけど、この辺くっそ長すぎるし比較的暗い話やし、書く時間なさそうだからほぼ端折るわ

まぁ何か衝撃的なことがあったと思っといてくれれば

高校までと大学以降では、プログラミングスキルや交渉スキルをそれなりに得たってのと、ブレイクダンスやってるハイスぺな友人の協力とスキルの応用で運動能力もだいぶ上がったってのが大きな変化やな

あとは闇落ちした時に意識やアイデンティティの連続性も途切れたわ
前後の記憶は未だに抜けてるし、自分が誰か分かんなくなって自分の存在とかまだのうのうと生きている事実に強烈な違和感を覚えるようになって、それまで使ってた「俺」よりも不自然な「おれ」って一人称を使うようになった

とりあえず大学復学した頃の話から書いてくわ





134 :名無しさん@おーぷん 20/10/25(日)23:32:20 ID:shk

東京では、親友たちも最愛の彼女も僅かに芽生えていた自信すらも全てが一気に崩れ消え去り、死ぬことしか考えられなくなり、おれは死に場所を探すようになった

今まで毎日のように聞こえてきていた「生まれてきてごめんなさい」という自分に向けた頭の中での言葉が、何か考える度、常に頭の中で反響するようになった

親の期待に沿うこともできず、失敗に失敗を重ねた人生で、ここまで苦しんできてようやく掴めそうになっていた「胸を張って生きる権利」のようなものも、粉々になって消えていってしまった
あるのは記憶力が高いとかいう気持ち悪い能力と、気持ち悪い人格だけ
何の価値もない人間で、何の価値もない人生だった

とはいえ、せめて死ぬときくらい、自分がしたい最高の状況で死んでもいいんじゃないかと、そう思った
自爆テロとかそういったものでなければ、おれのような無価値なバカであっても、死に方くらい自分で選ぶ権利はあるだろう

その時おれは、アメリカ、ラスベガスの古びたモーテルのベッドの上にいた
ほぼ一文無しの状態から、得意のブラックジャックをぼんやりと打ち続けて勝ち、ようやく体を休めじっくりと考えられる空間を手に入れたところだった





135 :名無しさん@おーぷん 20/10/26(月)12:20:09 ID:6RN

色あせたオレンジ色のベットの上で目を瞑り、自分が人生の最後にどんな光景を見たいか、想像してみた

……

砂……

砂だった

そこで頭に浮かんで来たのは、真っ青な空とギラギラ輝く太陽、そして茶色い砂の大地だった
そこには、実際には見たことすらない、大きなコブのある大型の草食動物もいた
おそらく、今まで自分が経験してきた世界から一番遠く一番離れた世界を想像したんだと思う

砂漠で、全力で奮闘して死ぬことがとても美しく感じられた

そうか、おれは最期に砂漠に行きたいのか

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136 :1◆0sA8GVLJwJ07 20/10/26(月)12:21:31 ID:6RN

寝ている状態から起き上がって、改めて考える

砂漠というと、サハラ砂漠だろうな
でも、そうなると砂漠で奮闘する前にイスラム教徒の過激派に殺されてしまいそうだ
よほど言葉も交渉も長けた人間でないと、砂漠へ行く前に死んでしまうに違いない

それに、より砂漠らしい砂漠、奥地へ行くにはラクダにだって乗れないといけないだろう

…でも、それで最期だっていうなら頑張れそうだ

それからしばらくして、おれは日本へ帰国した





137 :1◆0sA8GVLJwJ07 20/10/26(月)12:29:28 ID:6RN

理想の死を迎える為には、まず何よりも、交渉力、コミュ力を鍛えないといけないと考えた
歌舞伎町では客引きで結果を出せはしたけど、交渉力という点で言えば、もっともっと相手と深い関係になって関係が築けるような、そんなより実践的なコミュ力が必要だ

その為におれは、京都祇園で死ぬ気でへらへらしながら毎日のように酒を飲み、修行を積んだ

そして、その時にセフレだった年上のキャバ嬢に言われた一言がきっかけで、おれは少しだけ救われて少しだけ前向きになることができた

理想の死を迎える為の、次のステップへ進もう

語学スキルを磨いたりより視野を広げたりする為に、大学に復学することにした
ナンパをしたり何度もキャバクラに連れて行ってくれたセンパイがよく「男を育てるのはいつも女」と言っていたけど、その通りかもしれない





138 :名無しさん@おーぷん 20/10/26(月)12:36:34 ID:aCJ

海外また行きたいけど言語の壁がキツイわ
中国一人旅した時もマジで想像以上に英語通じんくて死にかけた
優しい人多かったし後はGoogle翻訳で何とかなったけど一人旅好きの陽キャさん達は言語の壁どうしてるんやろなぁ





140 :1◆0sA8GVLJwJ07 20/10/26(月)18:58:41 ID:6RN

>>138
せやねんなぁ、英語が非ネイティブの国やと、空港とかホテル以外では英語は基本役立たんわ

最近やと意思疎通はポケトークでえぇんちゃう?
よほど奥地行くとか徒歩で村と村渡り歩くとかでない限り、今は途上国でもどこでも4G電波飛んどるし

短期のちょっとした観光だけでえぇんやったら
・挨拶
・美味しい
・美人
・Yes/No/良い/悪い
・要らない
・問題ない
・待ってください
・I want to 構文 (I want toって言った後はジェスチャーか地図/写真とか見せてゴリ押す)
だけ覚えとけば後はジェスチャーだけで概ねいけると思うで

どっちかというと単語や文法よりもジェスチャーの上手さとか表情の豊かさ(怒ってる/困ってる/嬉しいとかを確実に伝えられるようなオーバーな表現力)の方が重要やと思う





142 :名無しさん@おーぷん 20/10/26(月)20:19:39 ID:Mp4

つづき

ナンパと酒に満ちた自堕落な生活にある種ケジメをつけるべく、夜の世界の人たちや当時付き合っていたドイツ人女性とは別れ、そしておれはほとんど知人がいなくなった状態の大学に戻った

理想の死を迎えるにはまだまだ語学力や現場での判断力を磨く必要があったから、おれは大学にもほどほどに通いつつ、金を貯めては短期間発展途上国へ行って治安が悪そうな場所に飛び込む生活を始めた

でも途中で、砂漠まで待てなくなり、ほとんど人がいない離島で達成不可能なサバイバルをしようとしたこともあった
もう生きるのはたくさんだった
生きる権利を持っていないおれが生きているという違和感に耐えられなくなった
人がほとんどおらず食べられる植物もほとんど自生していない島で毎日走り、泳ぎ、移動して体力を使い切り、水もほとんど飲まずに4日絶食して、ついに海辺で倒れ、全く動けなくなった

ここまで力を使い切ったのは初めてだ
破片となったサンゴの死骸がチクチクと痛くて体が痺れる中、このまま数日動かなければ死ねるだろうと穏やかな気持ちになれた





143 :名無しさん@おーぷん 20/10/26(月)20:20:59 ID:Mp4

でも、死ななかった
山一つ向こうで暮らす老婆が偶然にも散歩をしたらしく通りがかり、おれは助けられた

やはり中途半端な死はいけない
全力で努力した結果あと一歩及ばず砂漠で死ねるように頑張るべきだと再確認し、老婆に迷惑をかけたことも反省しつつ、おれは大学近くの下宿先へと戻った





144 :名無しさん@おーぷん 20/10/26(月)20:22:56 ID:Mp4

さて、実はおれは、高校の頃から厄介な発作を患っていた

自己否定感がとても強かった高校時代、両親から「好きになれなかったから敬語で話しましょう」と言われて以来、俺は家の離れにある空き家で一人で暮らすのを好むようになった
物置として使われている三階建の空き家だった
両親とはほとんど顔を合わせなくなり、空き家で自炊をすることが多くなった

やはり、俺は人間の失敗作なんだと再確認した
勉強が出来ようが何ができようが、誰からも期待されていないし、生まれてしまったことが罪なんだと感じた

この頃から、俺の体は少しずつおかしくなっていった





145 :名無しさん@おーぷん 20/10/26(月)20:35:02 ID:Mp4

始めのうちは、カラオケに行った時だけ、うまく動けなくなって息がつまり、しゃっくりが止まらなくなるという症状だった
でも、次第にそれは悪化して、数年経つ頃には毎日7~8時間活動するだけでしゃっくりが止まらなくなり、電車の降車駅だろうが横断歩道の半ばだろうがうまく歩けなくなった
落ち着けばゆっくりそろりそろりと動くことはできたけど、下を向きっぱなしの体勢なので前は見えず、その間もずっとしゃっくりは続いていてその度に胸が強く傷んだ

しゃっくりは寝るまで収まらず、起きている場合は1000回を超えても全く止まる気配がなかった
その状態で少しずつ動くことはできたものの、しゃっくりが出てからも何時間も行動していると、その後3~4日は胸の痛みが収まらず痛みを耐えて過ごさなければいけなかった

何度も何度も、いくつもの総合病院に行って検査したけど、結果はどこも「異常なし」「気のせい」だと診断された

となると、俺の心が弱いのが悪いに違いない





146 :名無しさん@おーぷん 20/10/26(月)20:39:34 ID:Mp4

俺の心が弱いせいで、俺はささいなストレスに耐えきれず、それによって日々の活動を制限されているらしい

ちなみに、小さいころからおれは、30歳までには何らかの原因で死ぬという確信を持っていた
自殺にしろ事故にしろ病気にしろ、おれには30歳以降の人生は無いと確信していたから、小学校の高学年以降で30以降の人生に思いを馳せたことはなかった
早ければ20代前半で死ぬのだろうと思っていたから、人生設計と呼べるようなものは一切しなかった
おれには老後は存在しないと当たり前に考えていた

だからこの発作でも、やっぱり俺は30歳までしか生きられない虚弱な心と体なんだろうな、と思った

バカで何の取り柄も才能もないくせに、俺はその上心も体も弱いらしい





147 :名無しさん@おーぷん 20/10/26(月)21:28:01 ID:Mp4

友達は俺の「発作」が出るといつも手慣れたようすで必要に応じて介抱してくれたけど、俺は、友達と遊ぶのは楽しいはずなのに、幸せなはずなのにストレスなのか緊張なのか、発作が出てしまう弱い心の自分が許せなくなった

俺のようなゴミと仲良くしてくれる心の広い友達に、迷惑をかけるのが本当にとてもとても辛かった
だから、心がボロボロになって気付くとアメリカにいたあの時以降、友達と関わるのが更に辛くなり、スマホのSIMカードも捨てて連絡を絶っていた
おれは独りになり身軽になったはずだったけど、それでも発作は収まらなかった

その発作について、大学復学前、祇園で出会った別のキャバ嬢が「ごーたろー君のその発作、逆食(逆流性食道炎)にちょっと似てるなあ。あたしそうなんよ。変なしゃっくりとかは無いけど」と言ってくれたことで、おれは一歩前進することができた
そのキャバ嬢は薬学部を卒業していて医療にも詳しかった

とりあえず胃カメラを受けたら?と勧めてくれたので大学に復学し金を貯めてから胃カメラを受診したところ、異常が見つかった





148 :名無しさん@おーぷん 20/10/26(月)22:00:30 ID:Mp4

高校の頃からのストレスで後天的に物理的異常が生じた可能性があるらしい

その物理的な異常を治す手術をすればしゃっくりも止まる気がしたけど、医者に相談したところ
「しゃっくりは症例としてあがってないから、それを止めるために手術はしてあげられないよ。他の症状もしゃっくり以外は穏やかなようだし、何にせよ手術はできない」
と断られた

当時日本では欧米と違ってその手術があまり浸透していなかったので、医者がそう言うのも無理はなかったかもしれない

まぁ、あと少しの命だし、できないものは諦めよう

とはいえ、砂漠の奥地へ行くためには、肉体的により強くなる必要はある
おれは体力と戦闘力を上げるために、キックボクシングジムに入門した
死ぬために死にものぐるいで練習に励んだ

師匠は「こんなに努力できる奴は初めてだ!」と喜んで、おれを内弟子にしてくれた
※内弟子:弟子の最上位格。ジムの掃除などの手伝いをして毎日トレーニングをする(基本週6で4時間だった)
月謝が不要で日々食事などもいただけて、道場に住み込むことがある

大学の関係で一緒に住むことはしなかったけど、師匠は毎日のように奥さんが営んでいる居酒屋に連れて行ってくれて、おれに腹いっぱい食事を与えてくれた





149 :名無しさん@おーぷん 20/10/26(月)22:05:12 ID:Mp4

おれは復学してからキックボクシングを始めるまではできるだけ人との関わりを避けて生活をしていたけど、師匠の長男や次男の勉強を見たり、奥さんや居酒屋の常連さんたちと世間話をしたりすることを通じて、おれの心を縛り付けていたものが少しずつ緩んでいった
これまでに経験したことがないほどの、皆の和気あいあいとした優しさのおかげで、おれは少しずつ、前向きに考えられるようになってきた

…そうだ、絶対に死ななければならないわけではないだろう、死ぬべきってだけで

例えば、謎の技術でアラビア語とかもすごい話せたりしてラクダも現地人顔負けに操れて、砂漠を何百キロも(サハラ砂漠を完全に横断する場合でも、道の無い砂漠横断は最大数百キロだった)
あっさり乗り越えられてしまうような、今のおれから見て訳分からんレベルで最強の人間になれたなら

無理だろうけど、そこまで最強になれたなら、生まれた罪を相殺して、堂々と生きても良いに違いない





150 :名無しさん@おーぷん 20/10/27(火)00:49:08 ID:SXt

師匠たちのおかげで、おれは心からそう思えるようになった

タイムリミットは、30歳だ
それまでに無理そうなら、事故や病死よりも砂漠での自殺を選んだほうが良い

ほぼ不可能な条件付きではあるものの、自分を許せる余裕が僅かに芽生えた

そう思えた以上、もし達成できればおれは間違いなく精神的に自由になれるだろう
おれは遂に、胸を張って生きる為に自分が自分に求めていた水準をはっきりと自覚することができた

しかしここで、疑問が生じた
死ぬための舞台と同じく、死なないための舞台も砂漠だったのは、よく考えると少し不思議だ
別に同じである必要はないし、そもそも生きる権利を勝ち取るための舞台や基準に地理的な制約が加わる必要も全くないから不思議だ
でも、死ぬにしろ死なないにしろ、砂漠に挑みたいという強い思いは変わらなかった

だからおれはそこで気付いた
…あぁ、おれにとって、死ぬ前に最後に見たい景色というのは、すなわち死ぬまでにどうしても見たい景色、自分が最もやりたいことだ

がむしゃらに能力を高め、ラクダと共に砂漠へ挑んだ時に見られる景色

おれが生涯をかけるべき最大の夢は、あらゆる状況に対応できる位能力が高まった状態で、砂漠にラクダと共に挑むことだったんだ…!!





153 :名無しさん@おーぷん 20/10/28(水)01:42:57 ID:Ky1

そうと分かれば、より一層全力で挑まないといけない

生き残るために、使えるものは何でも使おう
生存率を0.1%でも上げるため、スマートウォッチと連携できるオフライン地図アプリと、同じく連携できるラクダ用の発信機を自作した
砂漠踏破について相談できるような人間は周りにいなかったけど、昔砂漠をラクダと冒険した探検家の方のトークライブに行ったりして情報を集めた

あとは、匿名掲示板なら砂漠に詳しい人がいる可能性もゼロではないと考え、スレを立てて聞いてみることにした
ネットの世界なら、おれと似たような境遇・特徴や思想を持つ人に会えるかもしれない、とも考えた

そうして準備をして、おれは砂漠をラクダと旅しようとエジプトへ渡航した

でも、全く歯が立たなかった
イスラム国全盛期という国際情勢の問題は大きかったけど、それ以前に、砂漠に挑むには自分の能力が途方もなく不足しているという事実を痛感した

ラクダに乗る練習もしたし、言語は英語と片言のアラビア語ながらもそこまで問題はなかったから、砂漠への対策は思いつく限りしてきたつもりだったけど、仮にイスラム国の件が無くても砂漠へ出発できる気がしなかった





154 :名無しさん@おーぷん 20/10/28(水)02:11:20 ID:Ky1

…となれば、砂漠のことだけを考えていても砂漠踏破には届かないということだろう
仮に偶然うまくいったとしても、それじゃあおれはおれを認めない
そこで自殺するだけだ
自分が思い描いたハイスペックな自分になれたという自覚が得られなければ、おれにとってそれは前向きな自殺にしか結びつかないだろう
唯一死なずに済むルート、謎に最強な人間になるには、もっと幅広い経験をつんで時間をかけないと無理そうだ

まずラクダの扱いが全然駄目だ
最初はロバとかの扱いやすそうな動物から始めよう

馬に乗るのは高い技術が求められそうで難しそうだけど、もし万が一できればゲームの世界の話みたいだし、訳わからんレベルでハイスペックになるには乗り越えるべきものかもしれない
今のおれじゃあとてもできそうにないけど、物凄く楽しそうだ
あとはラクダは群れで行動するらしいからそれに近い羊とかも、難しそうだし楽しそうだ

死ぬ可能性が高い道を歩もうとしているにもかかわらず、楽しそうだと思えた

この時点でおれは、エジプトで目的を果たせず敗北したにもかかわらず、というか、敗北したからこそ、これまで感じたことのないピリピリとした高揚感に包まれていた
もう既に、スキルの応用をすることで殆どのことは高い水準で実現できるようになっていた
実現できる、つまり勝てると分かっている勝負はつまらない

でも、ラクダと砂漠を踏破するという「壁」は、おれが本気を出しても全く崩せなかったし、どうすれば崩せるのか想像すらできないほどに様々な方面の高い能力が求められる、極度に難しく手強いものだった
フィリピンへ行方不明の友達を探しに行った時も似た感覚に陥ったけど、エジプトでの遊牧経験はそれよりもさらに強烈だった

学校を卒業して、就職して、結婚などをしつつ定年まで働くという、多くの先人が歩み整備してきた安全地帯の「枠」の外側にある常識の通じない荒涼とした世界を、おれははっきりと知覚した

こんなに難しいものは初めてだっ!
やっぱりこれは、生涯をかけるに相応しい!
超、挑みがいがあるじゃないか!!





155 :名無しさん@おーぷん 20/10/28(水)02:12:36 ID:Ky1

この調子ならロバや羊と外国を踏破するのもかなり難しいだろうし、馬に乗って草原を巡るのなんかは今のおれでは実力不足で実現不可能だろう
楽勝でつまらないかもしれないという心配をせずに気兼ねなく本気が出せる、全力でぶつかることのできる「好敵手」が一気にたくさん思い浮かんだことで、興奮が全身をかけめぐって体中に満ちた

よし、地域も砂漠に限らず、ジャングルとか平野とか草原とか雪山とか、とにかく色んな経験を積もう
あぁ、ラクダは砂漠の船と呼ばれているから、小舟で海を航海する経験も何かしらの役に立つかもしれない
太平洋横断でもしようか
砂漠踏破の成功確率を僅かでも上げるために、できることは何でもやろう

30までに死ぬという確信はまだあったから、間に合うんだろうかという不安は常にあったものの、結果的にそれがおれの死ぬ気の努力量や能力の向上速度に拍車をかけた

こうしておれは、ロバや犬猫たちと野宿旅を行い、馬や羊とも野宿旅を行って、ヨットでの日本一周も達成した

それらの野宿旅は、はじめは砂漠踏破の為の経験値稼ぎとしての動機が強かったものの、それぞれ全てが圧倒的に強烈な体験で、おれは情緒を大きく揺さぶられ、とても得難く尊いものとなった

孤独に異世界へと挑み続けたことで物事の見方や考え方は目まぐるしく変わっていった

より自由でより楽に生きることができるようになり、更には周りの人や動物を気遣う余裕すら出てきた





156 :名無しさん@おーぷん 20/10/28(水)02:12:50 ID:nNx

ワロタ





158 :名無しさん@おーぷん 20/10/28(水)02:17:46 ID:Ky1

>>156
やっぱ幸せか不幸かって本人の心次第やんな





159 :名無しさん@おーぷん 20/10/28(水)02:19:08 ID:Ky1

それらの冒険準備では様々な能力の習得が求められた

大学での能力開発や東京での元親友たちとの経験から、おれは既に任意の分野に対して最大毎日16~18時間「没頭」し続けられる技術を身に着けていた
気象予報士などの難しいと言われる国家資格であっても、フルタイムで働きながら毎日平均10時間くらい勉強してあっさりと合格できるようになった
渡航先の言語も、金を溜めながら毎日10時間以上勉強し続ければすぐに話せるようになった

勉強については、元々記憶力が異常に高く、昔もののけ姫のセリフを全暗記したり単語帳を一冊丸暗記できたりするレベルだったのも影響してると思う
スピーキングやリスニングについては、生まれつき耳が繊細で細かい発音を聞き分けられたおかげもあるかもしれない
(音楽の専門学校に在学中は、複数の先生から「耳は既にプロ並」と言ってもらえていた)

勿論、苦手なことは得意なことより努力しづらかったけど、昔からむしろ苦手なことにこそ飛び込んでいくような獰猛なバイタリティは持っていた
小さい頃から、何かをするためのエネルギーは外部から与えられているかのように無限に補充されていた
だから、どんな行動を起こすのも苦ではなかった

後で知ったことだけど、この無限のエネルギーや長時間持続可能な集中力、強い想像力はどうやら「過度激動」と呼ばれているようだ

日本ではあまり認知されておらず、対応や子どもへの配慮等もほとんどなされないものだった
それについての資料によると、他人と同じように考え行動できない側面も含めてこれらは「神からの贈り物」らしいけど、過去の人生経験から、あまりにマイナス面の大きすぎる酷い贈り物に思えた

この過度激動を持つ人間のグループは、教育学上では「ギフテッド」と呼ばれていた





160 :名無しさん@おーぷん 20/10/28(水)02:20:19 ID:Ky1

ギフテッドについて少し補足説明する
特徴を羅列するとこんな感じや

・常に過剰なエネルギーを持ち好奇心が旺盛
・常に挑戦することを渇望する
・独特な学び方で習得速度が異常に速い
・記憶力が非常に高い
・言語を扱う能力が非常に高い
・視覚や聴覚などが非常に繊細で敏感
・複数の分野に対して力を発揮できる
・型破りな発想力があり、異なる分野の共通点を見出せる
・白昼夢(空想や想像を映像として見ること)に没頭したり、内省に多くの時間を割いたりする
・問題解決能力や洞察力が非常に高い
・創造的な活動を強く好む
・博愛的で完璧主義

車に例えるとレーシングカーみたいなもんかもしれんな
一般車道ではうまく走るのが難しいし、目立つ上にコスパも悪い
レール(一般道)から外れた場所でこそ力を発揮できるんや
先天的な記憶力とかエネルギーとかはあるものの基本的に努力型で、小さい頃は自分のさがに振り回され絶望することが多く、
(自殺しなければ)歳をとるにつれて色んな分野の力が出せるようになってくる、という感じらしい

日本のメディアとかではIQの高さとか一風変わった行いとかに焦点が当たることがほとんどやから、日本語で書かれたもので上手くまとまっているのはあまりないが、この辺りが分かりやすい…かなぁ
https://cocoiro.me/article/6175
https://claudework.com/gifted-characteristic/
https://youtu.be/fnj16A22uoM (2:30くらいから)





161 :名無しさん@おーぷん 20/10/28(水)02:21:15 ID:Ky1

まぁ色々と特徴を挙げたが、ギフテッドの客観的特徴は概ね(他人から見て)「過度である」ことに集約される

上に書いたような特徴を持つ人間は、他者からは次のように評価されるそうや

・行動的過ぎる
・意欲的過ぎる
・型破り過ぎる
・完璧主義過ぎる
・道徳的(偽善者)過ぎる

例えば、ワイは過去の冒険で相棒の猫が死んでしまったことでひどく悲しい思いをした
二度と同じことを起こさないよう、ホームレスとして公園やマクドなんかに入り浸る極貧生活の中で20万円以上払って医療系の研修を受け国家資格を取って、自分で注射やら治療が出来るようになった
高校受験の時は毎日20時間勉強していたし、大学時代、テレビゲームのミニゲームで(調べた範囲で)世界最速のタイムをワイが出せるかどうか先輩と賭けた時、
先輩を驚かせようと毎日15時間以上ゲームをやり続けて血だらけの手を包帯で巻きながらコントローラー3個壊した末に達成したりした
単発バイトも含40種類以上の仕事を経験して、チームワークが比較的苦手やという弱点を克服した
ほんで最近は、新しいスキルを習得する為にほぼイチから大学に通うことに決め、高校の復習含めた受験勉強をして合格した
(5教科7科目やなくて3教科4科目+面接やからちょっと楽しとるけどな)

これらは全て、ワイ的には最低限必要やと考えやった行為や
どれもが、ワイが自分に望む水準に達する為には絶対に必要なことやった
周りの反応を見るに「そこまでする必要は無い/やり過ぎ」と判断されることのようやが、本人はそうは思っとらん
少なくともワイは、一度きりしかない人生でやることやって完全燃焼すべく、最低限必要なギリギリの水準や時間、予算でスキルや経験の欠片を集め、効率よく生きとると思ってる
今ではもちろん、客観的には「バカな人生」と評価されることも理解しとるけどな

まぁそんな感じや





162 :名無しさん@おーぷん 20/10/28(水)02:21:35 ID:R0n

盗賊みたいなのに出くわしたことある?





163 :名無しさん@おーぷん 20/10/28(水)02:22:32 ID:Ky1

>>162
ならず者はいっぱいおるな

挨拶として握手を求めてきて、こっちが握ったら放さず金せびるっていう
慣れたら周りの状況見つつ振りほどいてしまいやけど





164 :名無しさん@おーぷん 20/10/28(水)02:24:09 ID:Ky1

スリ好きのガキとかもいっぱいおるが、大人になって盗賊グループやってる…みたいなんには会ったことないな

盗賊ってか人相手やなくてATMとか盗む方が合理的なんちゃうか?
キルギスでロックダウン時一回盗まれとったわATM





167 :名無しさん@おーぷん 20/10/28(水)02:26:23 ID:R0n

コロナで人いなくなって無法地帯みたくなった所もあるんやな





173 :名無しさん@おーぷん 20/10/28(水)02:31:52 ID:Ky1

>>167
まぁキルギスは人が両極端やからな

過激派の奴はガチ過激派で、首都で銃や手りゅう弾ぶっ放すのを躊躇せん
ついこの間も拘束されて収監中の前大統領を救う野党勢力が立ち上がって首都のど真ん中でドンパチやっとった

前大統領奪還には成功したらしいわ

https://twitter.com/GoHarumaRPG/status/1313252655049830400?s=20





165 :名無しさん@おーぷん 20/10/28(水)02:25:09 ID:AWs

遊牧民の旅してた人やんな
どうしたの?
簡潔に状況を教えてくれ





168 :名無しさん@おーぷん 20/10/28(水)02:26:27 ID:Ky1

>>165
旅の写真スレ立てたんやけど、その合間に昔話はさんどるだけや
今特に何かに思い悩んでるとかは一切ないで





169 :名無しさん@おーぷん 20/10/28(水)02:27:24 ID:AWs

>>168
そうかぁ
じゃあワイが今の君にしてあげられることは何もなかった

よい旅を





174 :名無しさん@おーぷん 20/10/28(水)02:33:13 ID:Ky1

>>169
ありがとうやで

でもニキみたいな優しい人と節目節目で出会えたから、今ワイは自殺せずに生きとるんや





178 :名無しさん@おーぷん 20/10/28(水)02:43:32 ID:8XW

最大の目標を達成してこれからは何するんや?





179 :名無しさん@おーぷん 20/10/28(水)02:47:47 ID:Ky1

>>178
えへへ?
詳細はまた機会があれば書くけど、新ワールド、いくでぇ!!





181 :名無しさん@おーぷん 20/10/28(水)02:51:20 ID:ZXp

そんな勇者がおんJにスレ立てする時代





183 :名無しさん@おーぷん 20/10/28(水)02:55:19 ID:Ky1

>>181
せやな、書籍やとワイ勇者になっとるなw





180 :名無しさん@おーぷん 20/10/28(水)02:50:31 ID:8XW

天才はすごいなぁ
勉強に集中し続けるコツとか教えてくれんか?





182 :名無しさん@おーぷん 20/10/28(水)02:54:36 ID:Ky1

>>180
うーん、基本的にワイの場合は「ハングリーさ」が原動力やな
自分の今の実力はどうしようもなく足りてへんし、もっともっと高いとこに行きたいという気持ちや

でもこれはやり過ぎると現在の自分を強く否定する事にも繋がるから、ほどほどがえぇと思うけど…





187 :名無しさん@おーぷん 20/10/28(水)03:23:52 ID:EUx

>>182
これがほんま凄い
ワイにはこれがない





184 :名無しさん@おーぷん 20/10/28(水)02:56:44 ID:8XW

孫正義は坂本龍馬を尊敬して頑張ったみたいな話してたがイッチは尊敬してるやつおる?





188 :1◆0sA8GVLJwJ07 20/10/28(水)08:30:48 ID:onT

>>184
ワイに出来ん事が出来る存在は尊敬するわ
絵が描けるとか、運動センスが抜群とか、水を1回で100L以上飲めるとか

友達は皆それぞれ別の理由で尊敬しとる

でも「○○さんに憧れたので挑戦や冒険の世界に飛び込みました!」とかは無いな、もともとの本能と適性や思うわ





186 :名無しさん@おーぷん 20/10/28(水)03:02:02 ID:UuA

おんjから書籍化ってマジ?





190 :1◆0sA8GVLJwJ07 20/10/28(水)08:35:16 ID:onT

>>186
ワイおんJはにわかやけど、おーぷんから書籍化はガチ





195 :名無しさん@おーぷん 20/10/28(水)09:47:08 ID:5Nb





196 :名無しさん@おーぷん 20/10/28(水)10:17:33 ID:2bv

空き時間で読んでるやで





200 :1◆0sA8GVLJwJ07 20/10/28(水)12:39:28 ID:onT

>>196
ありがとうやで!
もうちょいで終わりや!





241 :名無しさん@おーぷん 20/10/28(水)12:56:02 ID:0AA

ちなみにコロナ収まったらどっか行くんや?





275 :1◆0sA8GVLJwJ07 20/10/28(水)19:36:36 ID:onT

>>241
収まりそうにないな…(´・ω・`)
まぁどっちにしても今後数年は外国行けるだけの金の余裕ない気がするわ





276 :名無しさん@おーぷん 20/10/28(水)20:55:54 ID:Ky1

つづき

個人差はあるが、この過度激動を持って生まれたギフテッドと呼ばれる人間は、記憶力や問題解決能力が潜在的に著しく高い代わりに、その程度が強ければ強いほど波乱万丈の人生しか歩めなくなり、子どもの頃から孤立して破滅的な思考に陥りやすいらしい
難解なパズルの解法や真理の追求に強い興味を示して深くのめり込み、無限に思えるほどの膨大なバイタリティを注いで深く学ぶ傾向が強いらしい
また、外部からの刺激に対して非常に感度が高く敏感というのもその特徴で、おれは聴覚以外にも触覚が極端に過敏だった

どうやらそれが、発作によって本来出ないはずの非常に強い症状が出た原因だという可能性があった

ちなみに、しゃっくりの発作はまだ続いていたものの、京都から離れてからはかなり症状が軽減され、海外ではさらに発作が起きにくいことに気付いた
地元の京都に滞在すると発作の凶暴性はすぐに元に戻ったから、精神的な要因は大きそうだった

とはいえ物理的な問題もあるのは事実だったから、少しでも発作を軽減すべく、ヨットで日本一周をする前に発作の手術を受けられないか、もう一度別の病院にかけあってみることにした
そして、交渉力が更に高まり集中力や自分のコントロールもより自由に効くようになったおかげで、今度はうまくいった
医者は以前の医者と同じような回答を用意していた様子で乗り気では無かったけど、自分の持つ雰囲気を騙って弱気に強い交渉を仕掛けることで、とりあえず24時間の検査をしてみましょうという所までこぎつけた
そして、発作を止めるのはほぼ不可能だったけど逆に意識的に活発に発作を起こすことは集中しまくればできたから、モニタリング中24時間ほぼずっと発作を起こし続け、その後、一週間ほど胸の痛みと喉の違和感に苦しむことになりながらも、手術を受けることをうまく認めてもらえた

そして、おれは手術をした

…それ以来、おれを苦しめる発作は全く起こらなくなった





277 :名無しさん@おーぷん 20/10/28(水)20:56:43 ID:Ky1

疲れると少ししゃっくりが出るときはあったけど、すぐに止まる弱いしゃっくりだったし、胸も痛くならなかった

おれは遂に、肉体的に他の人とほぼ同じように過ごせるようになった
当然使える体力や活動時間は圧倒的にブーストされた
(元々発作出て息がつまりながらも濡れマスクつけてシャトルラン110以上出せるくらいの体力はあったけど)

こうして10年以上続いたおれの発作は消え、砂漠だろうが砂丘だろうが数百キロなら根性で超えられるんじゃないかと思えるほどに頼もしい体を手に入れた

なんだか「生きて良いんだよ」と誰かから背中を押された気がした

ぜったいに砂漠を乗り越えて、堂々と生きる権利を勝ち取ろうとおれは誓った

おれの最大の敵は、おれだった
仮に世界中の人たちがおれを認め称賛したとしても、おれはおれが最強スキルで砂漠に挑むまではおれを認めず、早く死ねと囁き続ける
過去の体験を蓄積した心の中の「おれ」は、誰よりもおれに厳しかった
深く傷付いた経験から傷付くのを恐れ、弱い卑怯な「おれ」だからこそおれに厳しくなり無理難題を押し付けるんだろう

なら、打ち勝てばいい
今まで苦しみぬいて辛い日々を送りながらがむしゃらに手にしたこの最強スキルたちで、おれが死ぬべきだという理も、30歳までに死ぬという理も、捻じ曲げて、捻り潰して、過去に囚われている弱い自分の檻を叩き壊して、絶対に自由に幸せに生きてやるんだ!!





278 :名無しさん@おーぷん 20/10/28(水)21:00:44 ID:Ky1

そして、砂漠へ挑もうと奮闘する中、砂漠へ挑む情報収集の為に立てていた匿名掲示板(おーぷん)のスレッドは多くの人が見るようになり、書籍化や漫画化、テレビやラジオ出演やその他仕事依頼なんかも来るようになり、砂漠への準備を優先しながらも書籍化など一部は実現した

その際に、これらの野宿旅の話をする時は「冒険」と言えば周りに伝わりやすかった
また、一部の人達は、どんどんスキルを習得していくおれのこのやり方をゲームのようだと言った

なるほど、確かにゲームっぽいし、当たり前のように生きてしまっている自分の存在に違和感があり、第三者的な視点から自分を操作している感覚の現在の「おれ」の状態にも、ぴったり当てはまる

ようし、それならおれは、リアルRPGを攻略する冒険家、春間豪太郎だぁ!!

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281 :1◆0sA8GVLJwJ07 20/10/29(木)12:50:03 ID:hDO

そうして、おれはシャムスを仲間にし、ここまでやってきた
この大砂丘を超えればゴールのドゥーズだ

「死ぬときは砂漠の奥で」という思いについては、既にジェリド湖の時点で自分の人生が報われたような気がしていたから、もういつ死んでも良いと思えるほど人生に満足できていた

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その時から頭の中の「早く死ねよ」というおれの声や「生まれてきてごめんなさい」という自分の懺悔の呟きはぱったりと聞こえなくなった
「強力なスキルを携えて砂漠に挑む」ことを果たし、誰よりもおれだけに厳しくこれまでずっとおれの存在を認めなかった「おれ」の基準をクリアしたということだろう

つまり、この冒険を無事終えさえすれば、おれは自由になりこれからも生きられる
ここまで来たからにはなんとしても五体満足で生還したい
その後30歳までに死にかねないような何かが起こるとしても、また最強のスキルで既定路線を捻じ曲げて回避してやる





283 :1◆0sA8GVLJwJ07 20/10/29(木)12:52:20 ID:hDO

もちろん他の人からすれば、砂漠に挑めない無能なら早々に自殺すべきだと言う考えも30歳の壁も、全てはおれの思い込みだと言うことはできる

でも、小さい頃から何年も何十年も積み重なってきたものを数年でそう簡単に払拭はできなかったし、おれはバカだから最強になる方向で自分に打ち勝つことしか考えられなかった
仮に、思い込みを取り除く方に専念してスキルを磨かず努力をしなかったら、取り除くより先におれの死を願うおれの声がどんどん強くなって、おれはおれに殺されてとっくに自殺していただろう

おれは自分で自分を傷付け殺そうとする点でもバカだったから、やはりこの果てしなく難易度が高い道を乗り越えるしか生きる術がなかった

…さあ、あと、もう少しだ!





286 :1◆0sA8GVLJwJ07 20/10/29(木)13:02:45 ID:hDO

今俺の目の前にあるのは、動物が生きるのを拒むかのような、カラカラに乾いた厳しい空間だった

そんな厳しく奇妙な世界に、俺は、ラクダと共に挑むことができるようになった
8年前、東京ですべてを失って独りニューヨークで呆然と過ごしていたあの時には想像もできなかった成長だ
正直なところ、ここへ来るまでにきっと俺は死ぬだろうと思っていた
5年前、エジプトの砂漠をラクダと旅しようとして結局ラクダの遊牧に切り替えた時は、動物の扱いや歩行能力、言語能力はもちろん交渉能力すら足りておらず、自分の実力不足を痛感して絶望した
自分ごときが努力をして砂漠に挑むことなんてできるんだろうかとずっと疑問だったけど、「自分を助けられるのは自分だけ」だと日々強く念じながら他人を当てにせずに精一杯生きてきた

あの頃は、何としてでもサハラ砂漠を7000km横断しないと自分に生きる権利は無いと思っていたけど、冒険を重ねる内に、7000kmを敢行する必要がないと思える位、心に余裕ができてきた
また、サハラ砂漠を横断する場合であっても殆どは道沿いに歩くことになり、砂漠を突っ切るとしてもせいぜい200km程度だということや、現代では嘘でもつかない限り一部の国のビザが取得できないだろうということを知った

まさに今、こうしてあっさりと砂漠に挑むことができているおかげで、仮にビザが取れるのなら、今の俺ならラクダと共にサハラ砂漠の7000km横断だってやってのけるだろうと、そう思えるようになった





292 :名無しさん@おーぷん 20/10/29(木)22:17:15 ID:3PP

そうやって自分を認めることができた時点で、おれのサハラへの挑戦は一つの終わりを迎えたと言えた

調査し発表することが目的の探検家とは違い、冒険家は挑むことが目的だ
冒険へ挑むことさえできれば、あとは自分のベストを尽くすだけ
冒険家の1人であるおれは、もう既に目的を果たしてしまっていた

…とはいえ、もちろんここで立ち止まって動かずに渇死するつもりはない
死ぬ時は砂漠で渇死したいとは思っているものの、おれの手足はまだまだ動くしシャムスも元気なので、力続く限り砂丘を乗り越えて行くべきだ

そうして考えながら砂丘を越えていくと、砂丘地帯を30kmほど突っ切ったところで起伏のある砂の地形が終わり、ゴツゴツした平らな岩砂漠が姿を現した

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293 :名無しさん@おーぷん 20/10/29(木)22:24:59 ID:3PP

はるか遠くにまた砂丘が見えるので、それまではこの岩砂漠を歩く事になりそうだ

そしてまた砂丘地帯へ入った辺りで日が暮れたので、砂丘の上にテントを張って野宿することにした
なんと今日は、シャムスに乗っていないにも関わらず勢い余って45kmも進むことができた
少なくとも冬なら、サハラ砂漠の砂丘地帯は根性で進めるらしい

「シャムス、頑張ったなあ!」と声をかけてシャムスにみかんをやる
シャムスは特に疲れたようすもなく、いつも通り元気そうだ

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この夜は明け方になるまで月が出なかったおかげで、チュニジアに来てから一番たくさんの星が見えた
静かな砂漠から見上げる、キラキラとまたたく星
この冒険を始めたばかりの時のあの塩湖、ジェリド湖でも大満足だったのに、まだ更にこんな素敵なものを見ることができるのか

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【リアルRPG 砂漠編48】最後の難所、大砂丘へ…
https://youtu.be/XUKN1NVqFQc





294 :名無しさん@おーぷん 20/10/29(木)22:33:07 ID:7aa

>>293
星すげー綺麗
これ独り占め羨ましい





295 :名無しさん@おーぷん 20/10/29(木)22:36:15 ID:3PP

>>294
砂漠ってのも勿論やけど、そもそも野宿がえぇわ
ゆっくり考え事しながら空見て流れ星数えるんや





296 :名無しさん@おーぷん 20/10/29(木)22:36:40 ID:3PP

翌日
昨日シャムスに穀物をたくさんやって荷物袋を軽くしたので、今日は時々シャムスに乗って移動することにした
砂丘と砂山、そして尖った岩の多い岩場を越え、予定通りに進んでいく

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しかし昼前、休憩のために立ち止まった時に、シャムスが後ろ左足を擦りむいているのを見つけて頭を抱えた
擦り傷といえど範囲は広く、血が滲んでしまっている

あぁ…しまった!
今朝はなんとも無かったけど、どうやら昨日からの砂丘での急な上り下りによって荷物袋が普段当たらない所に当たったせいで、足の皮膚が少しずつ削られてしまっていたらしかった
跛行(不自然な歩き方)は一切見られないし、経験上、シャムスの回復力を考えれば半日ほどで完治しそうなものではあったが、このまま進むと更に傷が悪化してしまうだろう
といっても、完治までここで待つのはまずい
シャムスは特に異常なく歩けるし、ここにとどまりドゥーズ到着が遅れると食料が少し足りなくなってしまうかもしれない

今日はシャムスの怪我についてやれることをやってから、ドゥーズへ向けて進むべきだ

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すぐさまシャムスの足を水で洗い、消毒をする
範囲が広いことと、完治まで時間がかからないだろうということで、今回は湿潤療法はしない

更に、荷物袋を重くしている主な原因は水と穀物などシャムスの食料だったので、それらをほぼすべてシャムスにやることで荷物袋の大幅な軽量化を図った
シャムスが食べ切れない分は砂漠に放置することにした
近い未来、砂漠に迷い込んだ動物が食べることで、命を繋ぐことができるかもしれない

しばらくシャムスのようすを見て他に異常は無いか確認してから、荷物袋を目一杯前につけて後ろ足に当たらないようにして、出発
当然ながら今日は今後はシャムスに乗らない

ここからは更に慎重に、最短でドゥーズに着くよう進んでいく





297 :名無しさん@おーぷん 20/10/29(木)22:43:37 ID:3PP

シャムスは擦り傷を全く気にしていないようで、足をあげたり舐めたりはせずに、いつもどおりゆったりと歩いていた

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夕方、また砂の上にテントを張ってシャムスにみかんをやり、体を休める

今日はこまめに休憩をとったので30kmほどしか移動できなかったけど、昨日たくさん歩いたおかげでドゥーズへはあと35km位だった
これなら明日には到着できるだろう

夜は満天の星空を眺めることができたけど、昨日と違ってドゥーズの方角がうっすら明るかった…

遂に、砂漠の冒険が明日で終わってしまう
あぁ、嫌だ、シャムスと別れたくない
シャムスは強くてカッコよくて可愛い、最高の相棒だ
できることならずっとシャムスと冒険を続けたかった

…でも、もちろんいつまでもシャムスと過ごすことはできない

明日ドゥーズへ行って、お別れしないといけない

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298 :名無しさん@おーぷん 20/10/29(木)22:47:48 ID:3PP

そして、、最終日がやって来た

シャムスは擦り傷が完全に治癒しているようで、調子も良さそうだ
一応乗っても問題無さそうだとは思いつつ、シャムスの負担を減らすためにまた歩いて出発

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ドゥーズまでは昨日までのような大きな砂丘がほとんど無く、スムーズに進むことができた

そして昼過ぎ、遂にはるか遠くにドゥーズの入り口が見えてきた
ドゥーズは砂漠との境目に門があり、大きな鍵の像もあるので遠くからでも分かりやすい

最後はシャムスに乗って、懐かしのドゥーズへ、到着

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到着後は、まずラクダ飼いのアーメルさんが暮らすハニーシへ向かうことにした
アーメルさんの所ならシャムスを繋ぐ場所もあるし、テントも張れそうだと考えたからだ

ドゥーズの中心で大量の草、水、穀物、みかんを仕入れてきてシャムスに与え、テントを張って横になる

あぁ、疲れた!





299 :名無しさん@おーぷん 20/10/29(木)22:53:54 ID:3PP


https://youtu.be/BnH_e1VnEBA





300 :名無しさん@おーぷん 20/10/29(木)23:35:04 ID:3PP

その後、アーメルさんの集落で暮らし始めて3日が経過した

…さすがにそろそろ、シャムスとお別れしないといけない

今回、シャムスにとって最も良いのは、元の場所へ戻ることだった
それが難しければ、トズールなどドゥーズと気候が似ている土地へ行くのが良いだろう

そこでシャムスの故郷、ゲリシアへ行ってラクダ飼いの人々と話をしたところ、元飼い主のハビーブさんが買い戻してくれることになった
ハビーブさんは他のラクダ飼いと比べて明らかに動物に対して優しいので、シャムスにとってこれは最高の結末だった
ハビーブさんは早速飼料を混ぜ合わせ、特別な食事をシャムスに与えた
シャムスは美味しそうにがっついていて、幸せそうだった

最後にシャムスとハグをして、別れる

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ついに、俺の砂漠の冒険は終わりを告げ、幼いころから抱え続けて来た呪縛から解放された

もう、自分の能力がどうとか生きる権利がどうとか周りと違っているのがどうとか、そんなつまらない事を気にしなくても良くなった
賢くなったり偉くなったりした訳ではなく俺は今でもバカなんだろうけど、それでも俺は自由に前を向いて生きられるようになった
目に映る景色が、昔とは比べ物にならない程鮮やかになった

そして日本に帰国して、先月、俺はとうとう30歳になった
結局、俺の考えとは違い、30歳になっても死ななかった

となれば、今まで想像したことすらなかった30歳以降の人生を、俺は歩んでいかなければいけない
まだ何も決まっていない真っ白な画用紙に、自分の好きな色をたくさん使って飛び切り最高の絵をめちゃくちゃに描いていこう!

……こうして、前を向いて生きる為の、俺の長い長い冒険は、終わりを迎えた

【完】

IvQcDEy





287 :名無しさん@おーぷん 20/10/29(木)13:44:25 ID:thc

yotubeの動画みたよ?
360度砂しかない世界は
自分の狭い世界じゃ考えられんw





288 :1◆0sA8GVLJwJ07 20/10/29(木)16:53:47 ID:hDO

>>287
ありがとう!
ホンマ凄い世界やったわ…





301 :名無しさん@おーぷん 20/10/29(木)23:47:54 ID:3PP

これで、この冒険の話はおしまいや

1つの冒険が終わったとは言うても、ワイにとっては生きる=冒険するやから、今回を境に就職したり隠居したりするかと言われればそうじゃなく、今後も色んな事はしていくで
次進むのが内定しとるワールドではワイ今んとこ能力的に最下位やと思うし、ハードモードなんめっちゃ楽しみやわ!

もし興味持ってくださった方いたら、どうか是非新刊買って欲しい
頼むで
書籍がたくさん売れたら、とりあえずまず新しい冒険するわ
次は中南米とか、あと北極近海もけっこう気になっとる

書籍試し読み:https://kangaeruhito.jp/trial/18228

紹介動画:
https://twitter.com/GoHarumaRPG/status/1321745782517587968





302 :名無しさん@おーぷん 20/10/30(金)16:26:22 ID:EPL

>>300
シャムスとのハグが
なんとも言えない雰囲気出てます
悲しいようなお疲れ様のような
また会おうなのような...
見てるだけで胸にきます...





303 :1◆0sA8GVLJwJ07 20/10/30(金)18:11:48 ID:LPw

>>302
コロナで日々の活動すら制限される世の中になったけど、また外国行って、シャムスに会いたいわ…(´・ω・`)






https://hayabusa.open2ch.net/test/read.cgi/livejupiter/1603518169/