完璧な保存状態のオオカミのミイラを発見 image by: Government of Yukon
小さな歯に柔らかそうな耳。つい最近まで生きていたかと思われるようなオオカミの子供のミイラが発見されたそうだ。発見されたのはカナダにある金の採掘場で5万7000年前のものと推測されている。
「これまでで一番完全なオオカミのミイラです。基本的に100%無傷で、欠けているのは目だけです」とアメリカ・デモイン大学の古生物学者ジュリー・ミーチェン氏は話す。
スポンサードリンク
金の採掘中にオオカミの子供のミイラを発見
2016年7月、かつてゴールドラッシュに沸いたこともあるカナダ、ユーコン準州クロンダイクで金を探していた男性は、凍結した泥に水を流していた。
こうすると泥が解けて中から金が出てくることがあるのだ。だが実際に現れたのは、見方によってはもっと貴重なものだった。
こうして発見されたメスの子オオカミのミイラには「ジャー」と名付けられた。先住民トロンデック・フウェッチンの言葉でオオカミという意味だ。
image by:Government of Yukon
5万7000年前の氷河期に生きたオオカミ
『Current Biology』(12月21日付)に掲載された研究によると、ジャーは今から約5万7000年前に生きていた。
その頃、北極では一時的に氷河が後退し、間氷期にあった。海面は現在よりずっと低く、シベリアとカナダはベーリング地峡によってユーラシア大陸と地続きだった。
おかげで動物は両大陸を自由に行き来することができた。ユーラシア大陸と北アメリカで更新世に生息していたオオカミの近縁種が発見されているのはそうしたわけだ。
ミトコンドリアDNA解析からは、ジャーもまた、そうした8万6000年〜6万7500年前に存在した共通祖先を持つグループに分類されることが分かっている。
image by:Government of Yukon
この地から去ったジャーのグループ
ジャーとその分岐群は、ヒマラヤの高地に生息するオオカミを除き、世界にいるすべてのオオカミの祖先だ。しかし今日のクロンダイクに生息するオオカミの直接の祖先ではないことも明らかになっている。
過去5万6000年の間のどこかの時点で、もともとクロンダイクにいたオオカミたちは死に絶えたか、どこか別の場所に移動し、かわりにジャーとはやや離れたオオカミのグループが住み着いたのだ。
ただし、それがグループ同士の競合の末に起きたことなのか、あるいは別の理由なのかといった詳しい経緯ははっきりとは分からない。
image by:Government of Yukon
夏に生まれ生後7週で死亡
だがジャー自身についてなら分かっていることもある。たとえば骨の発達具合から、死んだ時点で生後7週くらいだったと推測される。現生のオオカミは初夏に出産するのが普通なので、ジャーはおそらく7月から8月初旬頃に死んだということになる。
生後7週くらいだと、乳離れが始まる頃だ。現生のオオカミの子供は生後5、6週で固形物を食べるようになる。ジャーの体に含まれていた窒素同位体からは、サーモンをはじめとする魚をたっぷり食べていたらしいことがうかがえるという。
今日、アラスカ内陸部に生息するオオカミも、魚が豊富な時期にはそれを食べる。ジャーが生きていた場所は、今でも産卵のためにキングサーモンが里帰りするクロンダイク川から遠くない。ユーコン川からクロンダイク川にまで遡上したキングサーモンは、子供の離乳食を探す母オオカミにとって絶好の狩場だったろう。
image by:Government of Yukon
巣穴の崩落が死因か
だがそうした母オオカミの献身は悲しい結果に終わった。ジャーは生まれてまもなく命を落とした。それから数万年も遺体が残されたという事実から、ジャーが適切な条件下(永久凍土)で死に、すぐに埋まって凍りついたと考えることができる。
肉食動物に殺されたのならば、完全な姿では残らない。病気の場合もすぐに埋まって凍るようなことはあまりない。同位体の分析からは栄養状態が良好だったことが判明しているため、おそらくは殺されたわけでも病死したわけでもない。
研究グループの推測では、巣穴が崩落して生き埋めになったのだろうという。永久凍土に閉ざされたシベリアやユーコンとはいえ、マンモスやクマといった大型哺乳類が発見されることは珍しいが、リスやイタチといった巣穴で暮らす小型哺乳類なら同じ理由でしばしば発見されている。
だとするなら、ジャー以外の子供が見つかっていないのはなぜなのか。普通、オオカミは一度に4〜6匹の子供を出産する。なのにきょうだいも母親の遺体も見つかっていない。もしかしたらジャー以外はみな巣穴から出払っていたのかもしれないが、その答えが明らかになることはないだろう。
image by:Government of Yukon
地球温暖化が過去を明らかにする
最近の地球温暖化により、永久凍土に保存されていた大昔の動物が地上に姿を現し始めている。
永久凍土で発見されるミイラは、「当時を再構築するには素晴らしいですが、それは地球が実際に暖かくなっているということでもあります」と、ミーチェン氏は述べている。
References:arstechnica / upi./ written by hiroching / edited by parumo
あわせて読みたい
3万年前のホラアナグマのミイラが永久凍土から完璧な状態で発見される(ロシア)
岩塩坑で発見された古代イランの塩漬けミイラ「ソルトマン」(※ミイラ出演中)
すごヤバかっこいい!保存状態が良い1億1,000万年前の恐竜「ノドサウルス」の化石
シベリアの永久凍土から出土された12400年前の子犬のミイラ、絶滅種のクローン実験へと回される
ペルー・ナスカで発見された3本指のミイラ、DNA解析の結果、ヒトの新種である可能性が浮上
この記事が気に入ったら
いいね!しよう
いいね!しよう
カラパイアの最新記事をお届けします
「知る」カテゴリの最新記事
「動物・鳥類」カテゴリの最新記事
この記事をシェア :
人気記事
最新週間ランキング
1位 6141 points | 助けてくれたこと、ずっと忘れないよ。10年前に救ってくれた一家のもとを訪問し続ける野生のリスの物語(アメリカ) | |
2位 4836 points | ボクを一緒に連れてって!車の後を必死で追いかけてきた野良犬の保護物語(ギリシャ) | |
3位 4650 points | 幸せになれたよ!救助・保護された猫たち10のビフォア・アフター | |
4位 3777 points | 約400年ぶりに木星と土星の超大接近。伝説の「ベツレヘムの星」が蘇る? | |
5位 3436 points | 窓ガラスにぶつかって動かなくなった小鳥を必死に助けようとする仲間の小鳥 |
スポンサードリンク
コメント
1. 匿名処理班
顔の反対側画像有り難い
良く見る画像だとベルセルクのガッツのアレみたいだったからさ
2. 匿名処理班
生き埋めか…可哀想になあ。おかげで遺体は残ったけどさー。
3. 匿名処理班
温暖化で溶けた凍土から未知の細菌やウィルスがメタンとともに現れる可能性もあるが、過去の生物の正確な姿、つまり古の生態系を知ることや翻っては未来を予測することも可能かもしれない。
未来の可能性とは人間の自然環境への向かい合い方、接し方次第かも・・・
4. 匿名処理班
シベリアで溶け出した永久凍土からもオオカミの子のほぼ完全なミイラとか、膝軟骨からDNAが取れる状態のマンモスとかがどんどん見つかってるんだよね
研究者はそのDNAでマンモスを再生させたいと言ってたけど、その後どうなったかな?