シャカイハタドリの巨大な巣はシェアハウス /iStock
アフリカ南部に生息するシャカイハタオリという小さな鳥は、鳥にしては珍しく、巣をバラバラに作るのではなく、巨大なコロニーを作ることで知られている。人間的に言えば集合住宅、団地のようなものだ。
鳥が作る巣としては最大で、見た目も圧倒される。このコロニーは、一度に100組以上のつがいが巣を作ることができるほどの大きさで、しかも100年以上、何世代にも渡って受け継がれていくというのだから耐久性にも優れているのだろう。
過酷な環境である砂漠には、身を隠す場所はほとんどない。そのため、格好の隠れ家になるこのコロニーの中に棲んでいるのは、シャカイハタオリだけではない。
他の種の鳥やトカゲ、蜂、さらにはコビトハヤブサなどが居候しており、不思議な共生関係が築き上げられているという。
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アフリカ、カラハリ砂漠の乾燥した不毛な風景の中にあるいくつかの木の上には、その場に不釣り合いなほど草ぼうぼうの草ぶきの天蓋のようなものが存在し、乾燥しきった枝をたわませている。
iStock
植物を編み込んで作られたその巨大な鳥の巣を建造したのは「シャカイハタオリ」という全長約14cmの小さな鳥である。郊外や庭でよく見かけるスズメ目のこの鳥の仲間は、こんなに草を積み重ねて巣を作ったりはしない。
シャカイハタオリの巣に住む奇妙な居候たち
爬虫類・両性類学の専門家、ウィットウォーターズランド大学(ウィッツ)のグラハム・アレクサンダー教授は、砂漠の爬虫類の研究をしているうちに、このシャカイハタオリの巣に魅了された。
この巣はシャカイハタオリだけのものではなく、ほかにも居候がいるところが非常にユニークだという。
シャカイハタオリの巣の内部は、いくつもの個室に分かれていて、それぞれを鳥のカップル、その子どもたちが占領しています。
各個室の入り口は下から見ることができ、ミツバチの巣のような構造になっています。巣の中心にある部屋は熱を蓄え、夜間には寝ぐらとなり、外側の個室は、昼間の日よけとして使われます。
何代にも渡って長いこと使われ、100年も使われている巣もあります。新たなヒナは、厳密な周期サイクルで生まれるわけではなく、メスは雨季の後すぐに卵を産みます。
主食は穀物や昆虫で、水分はこうした食べ物から摂ります。シャカイハタオリの巣は実際には、広い環境の中の微環境になっているのです
巨大な巣は、極端に高い外気温を和らげてくれるため、シャカイハタオリだけでなく、カラハリ・ツリースキンク(トカゲ)やゴシキドリ、スズメバチなど、他の生き物が居候しています。
近くに捕食者がいるときに、この鳥があげる警戒の声に、ほかの動物たちもまた、反応するのです。昆虫がやってきて、それを捕食するトカゲが集まり、鳥が周辺に活気をもたらすというサイクルができているのです。
さらにはコビトハヤブサまでが巣の中に棲むこともあり、シャカイハタオリと不思議な共生関係を築いています。
コビトハヤブサは多くのスペースを占領してしまうし、獲物はおもにトカゲですが、時にハタオリを捕食することもあるので、一見、シャカイハタオリにとって、むしろデメリットのように思われます。
しかし、ハヤブサはヘビなどの捕食者を追い払ってくれることもあり、ハタオリにとって必ずしもデメリットばかりではないようです。でも、これはまだ研究段階で確証はとれていません
このように、さまざまな動物に好き勝手に居候されるがゆえに、本来なら自分たちのユートピアであるはずの巣で捕食者と遭遇してしまうこともある。
過去にはヘビが巣の中央に入り込んで、コロニーを破壊し、ほぼすべての卵やヒナを食べてしまったという例も記録に残っている。
巣作りをするシャカイハタドリ /iStock
シャカイハタオリは、生態系エンジニア
「かつてのわたしの教え子のひとりで、今は共同研究者となっているブライアン・マリッツが、シャカイハタオリの研究というアイデアを持ち出しました。ヘビが鳥や環境に与える影響が非常に大ききからです」アレクサンダー教授は言う。
シャカイハタオリは、生態系エンジニアと呼ばれます。彼らはもちろん自分たちのために巣を作っているのですが、それが知らず知らずのうちに周囲の生態系に影響をあたえ、ほかの生き物に恩恵を与えているからです。
ですから、彼らに影響を与えるものはなんでも、砂漠での生活にかなり大きな影響を与えるということなのです(グラハム・アレクサンダー教授)
Weavers Build Huge Communal Nests in Kalahari
シャカイハタドリの巣に訪れるヘビの調査
研究チームは、コブラやブームスラング(ツルヘビ)などの捕食者にセンサーや追跡装置をとりつけて放ち、30分ごとに彼らの動きや体温を測定した。
これによって、ヘビがいつ地面より上にいるのか、地下にいるのか、捕食しているのか、脱皮しているのかを記録することができます。
変温動物は、自分で体温を調節できないので、その行動によって体温が大きく変動します。気温の低い地下に隠れているときは体温が下がり、外で太陽を浴びているとき、狩りをしたり、捕食しているときには体温を上げてエネルギーを消費しているのがわかるのです
こうして集めたデータを使って、それぞれのヘビが食べ物を獲るためにシャカイハタオリに巣に頼っているかどうかを調べるつもりだ。
すでに、何匹かのヘビが同じ巣を頻繁に訪れていることがわかっているという。ヘビは近くの巣穴へ戻り、後で再び巣へ向かっているのだが、それが、エサのためだけの行為なのかは、まだはっきりわかっていないという。
A Hungry Snake Finds a Whole Colony of Sociable Weavers
シャカイハタオリの巣を調べることで生態系の謎に迫る
この研究は、南アフリカ最大のプライベート動物保護区、ツワル・カラハリで行われた。こうした研究は初めてで、カラ絶滅危惧種生態系プロジェクト(KEEP)という大規模研究の一環として、ウィッツ、ウニザ、プレトリア、ケープタウン、西ケープなど5つの大学から20人の生物学者が研究チームに参加している。
プロジェクトの目的は、砂漠のような過酷な環境に、動物たちがどのように適応しているかを調べることだ。ここでは、シャカイハタオリが巨大な巣を作ったり、クサリヘビが葉陰に隠れたり、コブラが地下へ潜ったりして、この酷暑を避け、耐え忍ぶ工夫をして生活している。
このデータは、生態系に与える影響を調べるための気候変動にも関係してくる。「この研究は始まったばかりですが、気候変動が生態系全体に及ぼす影響を検証する南半球初の研究です」アレキサンダー教授は言う。
「カラハリ砂漠は、南アフリカのほかの場所よりも2倍も早く気候変動による変化が起こっている場所なので、研究現場として理想的なのです。例えば、コブラが早朝に狩りを始め、午後は暑さを避けてじっとし始めるというように、一部の動物が行動スケジュールパターンを変える可能性が非常に高いのです」
次は、ほかの動物にも影響が出てきて、その生活パターンが変わるかもしれない。急速に変化する世界の気候が、砂漠やそこに生きる生物にどのような影響を与えるか、それをおしえてくれるのは時間だけかもしれない。
しかし、ひとつだけ確かなことは、それでも多くの生き物が、シャカイハタオリと共生してうまいこと生き抜いていくだろうということだ。
References:Massive nests of sociable weavers endure for generations, and house other species, as well/ written by konohazuku / edited by parumo
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コメント
1. 匿名処理班
アニメ化で企画書出しときます。
2. 匿名処理班
ゆつくり休める家があって、おやつまで付いてるとか天国か。
3. 匿名処理班
人間滅んだ後に進化して次世代の地球の覇者になりそう
4. 匿名処理班
>「カラハリ砂漠は、南アフリカのほかの場所よりも2倍も早く気候変動による変化が起こっている場所なので、
→ 知らなかった。氷の溶ける寒い所や、海面が上昇して困ってる地域ばかりに目が行っていた。
5. 匿名処理班
いやはや共生とはなんと甘美な響きか
普段寄生虫と呼ばれている私の心を温めてくれますな
6. 匿名処理班
蛇に住み着かれるとか怖いね
近所の川にカモの親子が住み着いた時は
デカい青大将もやって来た
7. 匿名処理班
木の上に森があるみたいな感じに成ってるのか