女上司「ふふっ、今年の新人はフレッシュでおいしそうね」新人「ど、どうも」
新人「は、はいっ!」
女上司「ふふっ、今年の新人はフレッシュでおいしそうね」
新人「ど、どうも」
男「じゃあ、後はあの人が面倒見てくれるから」
新人「分かりました! 初めまして、よろしくお願いします!」
女上司「こちらこそ、よろしくね」
女上司「ん?」
新人「この部屋は僕とあなた、二人きりなんですか?」
女上司「うん、そうよ。ここはちょっと特殊な課だから」
新人「そうなんですか」
女上司「二人きりで終業時間まで楽しみましょう」
新人「は、はいっ!」
新人「?」
女上司「どこかで見たことあるんだけど、気のせいかしら?」
新人「きっと気のせいでしょう。僕があなたにお会いするのは初めてですから」
女上司「そうよね、ごめんなさい」
女上司「じゃあ、お茶でも入れてきてくれる?」
新人「分かりました!」
女上司「ありがとう」
女上司「あ、背中がかゆくなってきちゃった……」
新人「よろしければ、かきましょうか?」
女上司「ううん、私にはこれがあるから」ポリポリ
新人「孫の手ですか。久しぶりに見ました!」
女上司「ん~、気持ちいい」ポリポリ
新人「そうですね」
女上司「じゃあ、お寿司の出前でも取っちゃおうか」
新人「寿司!? いいんですか!?」
女上司「うん、せっかく新人君が入ってくれたんだもん。奮発しないと」
新人「ありがとうございます!」
女上司「終業時間になったわね」ポリポリ
新人「はい」
女上司「じゃ、ちょっとお酒でも飲まない?」
新人「会社でですか?」
女上司「大丈夫。誰も文句いわないし、いわせないから」
新人「じゃあ、少しだけ……」
女上司「うん、またね」
新人「あれ? 帰らないんですか?」
女上司「うん、私はずっと会社にいることにしてるの」
新人「分かりました。お先に失礼します」
女上司「社会人生活を精一杯満喫してね~」ポリポリ
――――
――
男「相変わらずですよ。新人に毎日のように豪華な食事をさせたり、酒を飲ませたり……」
社長「例年通りだな」
社長「自分好みの味になるよう、彼を味付けしているんだ」
社長「そして、好みの味になったら……食う」
社長「比喩表現なんかではない。本当に……骨ごと喰らってしまうんだ」
男「……」
男「あの女に、毎年新人を一人、生贄に捧げるなんて……」
社長「しかし、大した特色もない我が社が、今の世の中繁盛してるのはなぜだと思う?」
社長「我が社に巣食うあの女による加護があるからだ」
社長「生贄の儀式をやめたら、たちまち我が社は倒産してしまうだろう」
男「いいじゃないですか、倒産したって!」
男「何も知らない若者の犠牲の上に成り立つ会社など、なんの意味がありますか!」
社長「現に、生贄を捧げるのを拒否した社長もいた。……だが、その社長は変死した」
社長「警察に訴えようとする者もいたが、やはり変死」
社長「中には家族丸ごと死んだ者もいる」
社長「ようするに、この会社に入社した者はその時点である種の“呪い”にかかってしまい」
社長「あの女に逆らうことも、秘密を外部に漏らすこともできなくなるというわけだ」
男「新人君に全てを伝え、逃がすというのは……」
社長「そういう試みもあったようだが、食われるのが早まっただけだったそうだ」
男「くっ……!」
社長「皆が助かる方法は一つしかない。それはあの女を倒すことだ。力ずくでな」
男「じゃあ倒しましょうよ!」
社長「残念ながら、これが最も難しい……いや不可能といっていい」
社長「なぜならあの女は化け物だからな。人間では絶対に勝てんのだ」
男「そんなことはありません! きっと倒せるはずです!」
男「俺はあの新人を見捨てることはできません! 今から行ってきます!」ダッ
社長「お、おいっ!」
男「おいっ!」
女上司「あらなに?」
男「彼はいないようだな。ちょうどいい」
男「もうあんたに生贄を捧げるのはやめだ! なぜなら今ここでお前をブッ倒すからだ!」
女上司「バカな子、私に力で挑むというの?」
男「うおおおおおおおっ!」ダッ
ボゴォッ!!!
男「げばっ……!」
バリィンッ!
女上司「ここは5Fだったわよね。さようなら」
男「うわああああああああっ……!」ヒュゥゥゥゥ…
――――
――
社長「病院だ。君はあの女にビルから叩き落とされたんだ。よく生きてたものだ」
社長「これで分かっただろう? あの女に歯向かうことがいかに無謀であるかが」
男「いえ、社長」
社長「!」
男「俺が生き延びたのは、きっと運命なのです」
男「“今年こそあの女を倒せ”という神からの啓示なのです!」
社長「ま、まだ諦めていないのか……!?」
男「その時までになんとしてもあの女の弱点を探し出し、倒してみせます!」
社長「……止めても無駄なようだな」
男「はい」
社長「勝手にしろ! ただし、私や他の社員は一切手を貸さんぞ!」
バタンッ!
男(俺一人で……戦うしかない!)
老社員「いらっしゃい、こんなところになにか用かね?」
男「この会社の歴史を調べたくて……」
老社員「いいとも、好きなだけ調べるといい。お茶菓子もあるよ」
男「ありがとうございます」
男(この部屋にはこの会社の歴史が詰まってる)
男(なにかあの女を倒す手掛かりがあればいいんだが……)
男(この会社、少なくとも明治からあるのか……)
男(ってことはあの女も明治時代から生きてるってことだな)
男(きっと初代の社長あたりが、あの女と変な契約を結んじゃったんだろう……)
ペラ…
男「ん、これは!?」
『社員の一人が社に伝わる宝剣で、女上司に一太刀を浴びせた』
男「これだ!」
男(結局この社員は殺されてしまったようだが、ダメージを与えることはできたんだ!)
社長「ん?」
男「この資料を見て下さい」
男「この宝剣であれば、奴を倒せるかもしれません! 今どこにあるんですか!?」
社長「さぁな」
男「え」
社長「考えてもみろ。自分にダメージを与えた剣だぞ? あの女が放っておくと思うか?」
社長「とっくに破壊されてしまったに決まってる」
男「くそっ!」
男(だけど、宝剣なんてそう簡単に破壊できるものなんだろうか……?)
――
男(明日からゴールデンウィーク……今日あの新入社員は食べられてしまうだろう)
男(結局、倒し方は分からないまま……。だが、見捨てるわけにはいかない!)
男(倒せないならせめて……俺が身代わりになるくらいできるはず!)
女上司「そうね」
女上司「だけど君はゴールデンウィークを迎えることはできない。本当に残念だわ」
新人「?」
女上司「でもいいよね。この一ヶ月、たっぷり食事とお酒を楽しませてあげたんだから」
新人「? どういうことです?」
女上司「なぜなら……」
女上司「あなたは私に食われちまうからよ!」グバァァァァァッ
新人「うわあっ!」
男「やめろッ!」
女上司「!」
男「新人を食べるのは……やめてくれ……」
女上司「あら、あなたまだ生きてたの。なんの用?」
男「新人の代わりに俺を食え!」
女上司「嫌よ。フレッシュな新人を食べるのが年に一度の楽しみなんだから」
男「だったら……無理かもしれないけど、今度こそ倒す!」
鉄パイプで殴りかかる。
ガツンッ!
女上司「……」
男「効いて……ない!」
女上司「まだ懲りてないの? 人間が私を倒せるわけないでしょ」
バキィッ!
孫の手による一撃。
男「うごふっ!」
男(くっ……勝てない……!)フラフラ
男「やめ、ろ……!」
女上司「じっくり味わってあげ――」グパァァァッ
新人「……」
ザクッ!
女上司にナイフが突き刺さる。
女上司「なに……?」
男「え……!?」
新人「兄さんも……そんな風にして食ったんだな。化け物め」
男(新人君……!?)
新人「いくら行方を探しても、結局見つからなかった……」
新人「だから、僕は真相を知るためにこの会社に入ったんだ!」
女上司「ああ、あなたは前に私が食べた生贄の弟だったのね」
女上司「どうりで見たことあるわけだわ」
新人「えっ、ナイフで刺したのに……!」
女上司「今の一撃、なかなかよかったわよ。正確に肝臓を刺してる。きっと相当鍛錬したのね」
新人「みるみる傷が回復していく!」
男「ダメだ! やはり宝剣でなければ!」
女上司「そう……あの剣でなければ私は倒せぬ」
女上司「だが、お前たちがあの剣を持つことは絶対に不可能だ!」
女上司「ハァッ!!!」ブワァッ
衝撃波を飛ばす。
新人「ぐはっ!」
男「うぐっ!」
男「くそっ、余裕ぶって背中なんかかきやがって……」
新人「あの人、いつもあの孫の手を持ってるんですよね。よっぽど思い入れがあるんでしょうか」
男「いつも……?」
男(なんで孫の手なんかを……? そんなに背中がかゆいのか? ……バカな)
男(もし、手放したくないんじゃなく、手放せない事情があるとしたら……)
男「そうか、分かったぞ!」
男「あの孫の手が宝剣なんだ!」
男「会社に住む化け物であるあの女には剣を隠す手段はないし、破壊することもできない」
男「だから孫の手に偽装して、自分でずっと持ってたんだ!」
新人「はいっ!」ダッ
女上司「バカめ、分かったところでどうにもならん!」
バキィッ! ドゴォッ!
男「ぐはぁっ!」
新人「あがっ!」
女上司「愚かな人間どもよ。二人まとめて食ってくれる!」
ズラッ……
男「社長……と社員のみんな!」
社長「化け物退治を君たちだけに任せてすまなかった……」
社長「私たちにもかっこつけさせてくれ! みんな、行くぞォ!」
老社員「老体に鞭打つとしようかのう」
ドドドドド…
女上司「クズどもがァ!」
女上司「ちっ、まさか社員全員で向かってくるとは……!」
女上司「このぉっ!」
社長「げぶうっ!」ドサッ
社長「せ、せめて……孫の手を……」ガシッ
ポロッ
男「孫の手が……落ちた!」
男「新人君、拾え!」
新人「はいっ!」ダッ
女上司「し、しまったァ!」
新人(仕込み杖のようになってる……。こうやって宝剣を隠してたのか!)シャキンッ
女上司「まとわりつくな! ゴミども!」
ブワァッ!
社員達を吹き飛ばし、新人に迫る。
新人(兄さん、僕に力を貸してくれ!)
新人「うわあああああああああっ!!!」ダッ
グサァッ!
女上司「ぐはっ……!」
男「まだ動くのか!」
新人「これで……終わりだァ!」
刺さった宝剣を――
ザンッ!
女上司「ギエエエエエエエェェ……!」ジュワァァァァァ…
ブスブスブスブス…
老社員「見事じゃ……」
男「新人君……よくやってくれた!」
新人「兄さん……仇は取ったよ」
――――――
――――
――
しかし、会社に巣食う化け物が毎年生贄を求めるというあまりにも非現実的な事件のため、
法的にどうこうすることは難しく、事件は闇に葬られることとなった。
とはいえ、彼らが十字架を背負って生きていくことには変わりない。
さて、男と新人はというと――
新人「はい。きっと兄も浮かばれたと思います」
男「ところで、起業のことなんだけど……」
新人「ぜひついていかせて下さい。先輩の描いてるビジネスモデルなら成功しますよ!」
男「……ありがとう」
男「俺たちは……新しい会社を作ろう!」
新人「はいっ!」
男「上司が部下を犠牲にしたりしないフレッシュな企業を立ち上げるんだ!」
― 終 ―
コメント一覧 (3)
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- 2021年04月10日 20:52
- 新人の優しさに女上司がほだされてベッドで食べちゃう展開を期待してたのに・・・
クソゥ・・・
-
- 2021年04月10日 22:13
- フレッシュとか言うからジュースにでもするのかと
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