男「歩きスマホしてる奴っていったい何を見てるんだろう?」
女「うん、ポスターがずらっと貼られてる」
男「結構候補者いるんだな。そんなになりたいかね、市長なんて」
女「公約も色々あるよ。『新道路を作る』『介護問題解決』『地域経済活性化』……」
男「気前のいいこって。お、『歩きスマホ撲滅』なんてのもある」
女「歩きスマホねー、たしかに最近多いもんね」
男「しょっちゅうぶつかりそうになる。マジで危ねえよ」
男「俺もスマホは持ってるけど、そんなに歩きながらやるようなことあるか?」
女「んー、LINEとか?」
男「LINEなんかメッセージ来たところで、すぐ返さないけどな俺は」
女「あんたは既読つけといて平気で一日後に返してくるもんね……。じゃあ動画見てるとか?」
男「なんで動画をわざわざ動きながら見るんだよ」
女「ゲームやってるとか?」
男「ゲームって立ち止まった方が集中できていいんじゃねえの?」
女「知らないよ! 歩きスマホしてる人に聞いてよ!」
女「へぇ~」
青年「……」スタスタスタスタ
男「うわっ」
女「きゃっ」
青年「ああ、すみません」
男(こいつ歩きスマホしてる……そうだ!)
青年「な、なんですか」
男「歩きスマホなんかしやがって。危ないじゃねえか!」
青年「だから謝ったじゃないですか」
男「いーや、納得できない。だからほら、スマホを見せてもらおうか」
青年「え」
男「お前が何を見てたか知りたいんだよ。ちょっと見せてくれたらそれでいい」
青年「はぁ……これです」
男「ただのホーム画面じゃん」
青年「は、はい」
女「ホーム画面ってことは、特に何もない画面を見ながら歩きスマホしてたってこと?」
青年「ええ、そうです……。もっというと、あなたたちにぶつかりそうになったのもわざとです」
男「どういうことだよ? 説明してもらえる?」
青年「分かりました……」
『お前の秘密を知っている。バラされたくなくば、歩きスマホをして10人とぶつかりそうになれ』
男「なにこれ……?」
女「脅迫じゃない!」
男「そもそも秘密ってなんだよ?」
青年「なんのことか分からないですけど、でも人にいえないことぐらい僕にもあるし……」
女「それで脅迫に従ったわけね」
青年「いえ、警察に知らせるなって書いてあるし……」
女「このメッセージだけで真剣に動いてくれるとも思えないわね」
男「内容が漠然としすぎてるしな。で、今何人ぐらいとぶつかりそうになったんだ?」
青年「あなたがたでちょうど10人です」
男「もう要求には応えたわけか」
青年「はい、だからもう大丈夫だと思うんですけど……」
女「あるいは不幸の手紙的な愉快犯かも」
男「なんか変なアプリでも入れちゃったんじゃねえの? 見せてみろよ」
青年「いや、特には……」
男「お、この漫画アプリ、俺も入れてる」
青年「あ、そうなんですか! 『下町デスゲーム』面白いですよね!」
男「これは?」
青年「それは、市内面白マップっていうアプリで……」
男「へぇ~、俺もインストールしようかな」
女(すっかり仲良くなっちゃって……)
女「なんだったんだろうね」
男「さてな。まあ、俺らが気にすることじゃねえよ。10人達成したらしいし」
高校生「……」スタスタスタスタ
男「おっと!」
高校生「あ、すんません」
女「また歩きスマホ……!」
男「ちょっと待て」
高校生「なんすか?」
高校生「え、なんで分かったんすか!?」
女「やっぱり……」
男「さっきと同じだ」
高校生「『お前の秘密を知っている』ってメッセージが届いて……」
高校生「やべえ、浮気してんのバレたのかなと思って……」
男「一回彼女にしばかれてこい」
女「スマホ、ちょっと見せてくれる?」
高校生「いいすけど」
主婦「ごめんなさい、つい歩きスマホしてて」
男「あの……奥さん」
女「あなた脅迫されてません?」
主婦「なんで分かったの!?」
リーマン「申し訳ありませんでした」
男「あんたも脅迫されてたのか……」
女「スマホ見せてもらってもいいですか?」
リーマン「はい……別にかまいませんけど」
男「どうなってんだ……?」
女「一つ、分かったことがあるよ」
男「ん?」
女「今日会った人のスマホ、私は全部見せてもらったんだけど……」
男「なんか共通点があったのか?」
女「みんな、あるアプリを入れてたの」
男「え」
女「最初の青年君も入れてた……市内面白マップってやつ」
男「え、あれ?」
男「あんなもん、市内の観光名所を紹介してるだけの健全なアプリじゃん」
女「うん、そうなんだけど……偶然とは思えないのよ」
男「で、俺にどうしろと?」
女「試しにインストールしてみて」
男「やっぱり……。まぁいいけどさ」
男「だけど、何も起こらないぞ?」
女「アプリを起動してみて」
男「可愛いマスコットキャラが市の名所やお店を紹介してくれるだけだ。よくできてる」
男「お前の考えすぎだったんだよ」
女「……」
女「念のため、しばらくの間他のアプリを入れたりしないで」
男「分かった」
女「変なサイトにも入らないでよ」
男「へいへい」
男「……ん?」
男(スマホに何かメッセージが……)
『お前の秘密を知っている。バラされたくなくば、歩きスマホをして10人とぶつかりそうになれ』
男「来た……!」
男(他に心当たりはないし、あのアプリが原因なのは間違いない)
男(まさか24時間以上経ってから来るなんて……)
男「さっそくあいつに電話するか!」
……
ザワザワ…
候補者「えー、皆様。私が市長になったあかつきには!」
候補者「必ずや歩きスマホを撲滅させてみせます! どうか一票をお願い致します!」
パチパチパチパチパチ…
「いいぞー!」
「最近マジで歩きスマホ多いもんな」
「俺、この人に入れようかな」
ワイワイ…
候補者「ん?」
ドンッ
候補者「わっ、なんですか!」
男「ああすいません、歩きスマホしてて……ついぶつかっちゃいました」
候補者「なんだと……?」
男「結構人が集まってるな、ちょうどいい。みなさーん!」
候補者「おい、今は私の演説中で……」
男「歩きスマホをしないと秘密をバラす、ってやつ」
ザワザワ…
「あ、俺ある!」
「私も!」
「無視したけど……」
男「何人かいるらしいですね。俺もその一人です」
男「これぐらいの要求なら……と思ってしまう」
男「そういう人が歩きスマホで、他人とぶつかろうとしたらどうなるでしょう?」
男「答えは簡単、そこかしこで歩きスマホで不快な思いをする人が増える」
男「ではいったい、誰がこんなことをしているのか?」
男「実はこのメッセージ、あるアプリをインストールすると発生することが分かりました」
男「たまに入れた途端、妙な通知をしてくるアプリがありますけど、あの原理です」
男「さて、そのアプリとは――市内面白マップです」
ザワッ…
男「歩きスマホは危ないなと思う人が増える……」
男「果たして、犯人はなんのためにこんなことをしてるのでしょうか?」
男「こんなことして得する人間なんているんでしょうか」
男「一人いました。とんでもなく得をする人物が……」
男「それは……今度の市長選で、唯一『歩きスマホ撲滅』を公約にしてる人物……」
男「候補者、あんただよ!」
候補者「……ッ!」
ザワザワ…
男「この騒動、あのアプリが怪しいと思うこと自体かなり難しい」
男「市内面白マップは至って平和的なアプリだから警戒せずインストールしちゃうだろうし」
男「インストールからメッセージが出るまでかなり時間が空くからな」
男「だが一度あのアプリが怪しいと分かれば……ここからは簡単だ」
男「なぁ?」
女「うん」スッ
女「あのアプリ作ってる人に連絡取って、今度はこっちから『お前の秘密を知っている』をやってみたよ」
女「そしたら、脅迫されるのは慣れてなかったのか、ベラベラと白状してくれたよ」
女「“誰に頼まれてこのアプリを作ったか”……ってね」
候補者「ぐ……ッ!」
男「晴れて市長になったらアプリは消して、隠滅する予定だったんだろうが残念だったな」
男「歩きスマホしてる奴にいちいち理由を尋ねる俺みたいな奴がいたことだ」
女「ああついでに、私みたいな相方もいたことね」
候補者「く、くそぉぉぉぉぉ……!」ガクッ
…………
……
女「ホント!」
男「まさか、市長になるために市民に歩きスマホをさせる奴がいるとは思わなかった」
女「ねー」
男「あの候補者、どういう罪になるのかな?」
女「さあ……。一ついえることは、市長になれないことだけは確実だろうね」
男「そうだな。ざまあみやがれ!」
女「勝利祝いになんか食べてく?」
男「じゃあ、スマホで店を調べて……」
女「おっと、歩きスマホはダメだよ」
男「あぶねえ。ついやるとこだった」
こうして事件は解決した。
しかし……
「参ったなぁ。歩きスマホしないと死ぬデスゲームに参加しちゃうなんて……」
「歩きスマホの原理を完全に解析すれば世界を救えるかもしれぬ。今日も歩きスマホするぞ!」
世の中には思いもよらぬ理由で歩きスマホしている人が、まだまだいるのかもしれない――
~おわり~
コメント一覧 (3)
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- 2021年05月07日 21:47
- 歩きスマホしてるやつを、段差やポール等の小さい障害物に誘導させるのめっちゃ楽しいからオススメ。
-
- 2021年05月07日 21:53
- 情報じゃなく画面を見ている
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男はゲーム、強者はイヤホンまでしてドラマ見てるのもいる
人の流れを妨げぬ速度で歩いてるなら別に構わないし階段踏み外すのも自己責任だが
女の中には歩行速度が極端に落ちてそのうち完全に止まってしまう奴がいる
よほどショッキングなものでも見たのだろうか?
うちの職場ではこの現象を「チチキトクスグカエレ」と呼んでいる