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【悲報】寝ようとする→兄の焼死体がこっちを見ている→起きる… | 不思議.net

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    【悲報】寝ようとする→兄の焼死体がこっちを見ている→起きる…



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    1: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/20(月) 19:10:36.45 ID:0+F9qqc+0
    ひーちゃんは中学生の頃に三人殺した
    父、母、兄の三人だ
    自殺しようと思って、自宅に火をつけた
    はた迷惑な野郎だ

    そしたらひーちゃんだけが助かってしまった
    やっちまった、とひーちゃんは思った
    いい人達だったのに燃やしちまった

    4: 忍法帖【Lv=40,xxxPT】 2012/02/20(月) 19:12:18.26 ID:/v9F0tRR0
    >>2
    なんだこれwww

    引用元: https://hayabusa.5ch.net/test/read.cgi/news4vip/1329732636/





    3: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/20(月) 19:11:33.39 ID:jSBFc3Sf0
    あー怖い

    5: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/20(月) 19:12:26.73 ID:0+F9qqc+0
    家が無くなり、家族が全員死んで、
    親戚の家で暮らすことになったひーちゃんは、
    「いざとなったらもう一回自殺すればいいや」と思い、
    そしたらけっこう生きるのが楽になった

    火をつけたのがひーちゃんだとは誰も思わなかった

    6: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/20(月) 19:13:29.93 ID:91pEofXt0
    やめろ

    7: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/20(月) 19:14:18.74 ID:0+F9qqc+0
    高校は遠い、勉強は難しい、親戚は優しい、
    多忙な生活の中で、ひーちゃんはふつうの人間になっていった

    「なんで自殺なんかしたんだろう?」と思うようになった
    中学の頃の俺は、頭がおかしかったんだ

    8: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/20(月) 19:16:31.95 ID:0+F9qqc+0
    ひとごろしのひーちゃんは、
    奨学金を使って大学へ進学し、一人暮らしを始めた

    全ては順調に行っているように見えたが、
    春の終わりごろから、寝不足に悩まされるようになった

    兄が寝させまいとしてくるのだ

    確かに悪いのはひーちゃんの方なので、
    そういうことをされても仕方ないとひーちゃんは思った
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    9: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/20(月) 19:18:13.27 ID:0+F9qqc+0
    眠りにつくその瞬間、ふっと目が覚めて、
    窓なんかに目をやると、兄がこっちを覗いている
    死んだときの姿そのままで

    あまり気持ちの良いものではない
    率直に言ってびっくりする
    正直さいしょは悲鳴をあげた

    直接的な何かをしてくるわけではないが、
    ひーちゃんは着実に弱っていった

    10: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/20(月) 19:21:06.85 ID:0+F9qqc+0
    授業中に居眠りをするようになって、
    ひーちゃんはある法則を発見した

    人前で寝る分には、兄は現れない

    教室や食堂など、人の集うところだと、
    ひーちゃんは安心して寝られるようになった
    一人でもひーちゃんの存在を意識している人がいれば、
    ひーちゃんはよく寝ることができた

    12: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/20(月) 19:24:16.04 ID:simDbUUJO
    >>中学の頃の俺は、頭がおかしかったんだ

    >>中学の頃の俺は、頭がおかしかったんだ

    13: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/20(月) 19:24:24.96 ID:0+F9qqc+0
    じゃあ友達に手伝ってもらえば寝られるじゃん!
    しかしひーちゃんには友達がいなかった

    罪の意識からくる自分への戒めなのか、
    単純に人付き合いが苦手なのか分からないが、
    とにかくひーちゃんには友達がいなかった

    眠くなると、近所のマックやドトールに行って迷惑がられた
    それでも睡眠時間はろくにとれなかった

    14: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/20(月) 19:27:50.00 ID:5pHrw3Ib0
    なにこれ怖い

    15: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/20(月) 19:27:53.61 ID:0+F9qqc+0
    たぶんひーちゃんは寿命が残り少なかった
    ひーちゃんもそれを自覚していた

    兄は本気でひーちゃんを連れていくつもりだった
    ひーちゃんも仕方のないことだとは思った

    むしろ、父と母が同じように現れないのが不思議だった
    親と言うのは心が広いんだなあ

    16: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/20(月) 19:28:15.54 ID:Jzp7dw/Y0
    嫌いじゃない

    17: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/20(月) 19:28:19.57 ID:JAy8MWqP0
    そうだ!天国へ行こう

    19: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/20(月) 19:31:45.23 ID:0+F9qqc+0
    一生懸命生きてきて、自分の人生に愛着も湧いていたが
    一方で、そんなに生き残りたいとも思わなかった

    ただし、積極的に死のうという気もなかった
    そのうち目が悪くなり、耳も遠くなってきた
    起きてるんだか寝てるんだかも曖昧になってきた

    23: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/20(月) 19:35:22.69 ID:0+F9qqc+0
    その日もひーちゃんはイオンのフードコートで寝ていた
    携帯がガタガタいう音で目が覚めた
    そういえば携帯って振動するんだっけ

    ひーちゃんが携帯をぱかっと開けると、
    なんと着信が五件もきていた
    これはひーちゃん的には一年分に相当する

    24: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/20(月) 19:35:40.76 ID:A7gQNSsc0
    おもしろいじゃないか。ハッ!

    26: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/20(月) 19:39:08.67 ID:0+F9qqc+0
    選択科目の授業でペアを組んでいる相手だった
    授業のことで何かあったのだろうか
    あわててひーちゃんはリダイヤルした
    咳払いをして声を整えた

    死期が近づいていると分かっていても
    相変わらずどうでもいいことが気になる
    単位なんてとっても仕方ないのだが

    27: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/20(月) 19:41:46.41 ID:0+F9qqc+0
    「寝てた」とひーちゃんは言った

    「だろうと思った」と相手の子は言った

    しょっちゅう隣の席で寝ているから
    ひーちゃんがよく寝る人だということは知っていたようだ

    ひーちゃんは聞いた、「で、何の用事?」

    「ほら、あれ、水曜一限の課題」

    「なんかあったっけ?」

    「今日の六時までのやつ」

    「それ、大事なやつ?」

    「はあ?」お怒りの様子だ

    28: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/20(月) 19:44:05.09 ID:0+F9qqc+0
    「それって、成績に響く?」ひーちゃんは聞いた

    「これやんないと単位もらえない、超大事」

    「分かった。大学行けばいい?」

    「いや、君んちの傍にいる」

    「え? 知ってんの?」

    「前授業で言ってたじゃん」

    「あー。でも俺、今イオンにいる」

    「はあ?」

    授業の時も、しょっちゅう「はあ?」と言うので、
    ひーちゃんはこの子のことを、頭の中で「はーちゃん」と呼んでいた

    29: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/20(月) 19:47:06.52 ID:0+F9qqc+0
    「早くこっちきてよ」

    「三十分くらいかかる」

    「はあ? さっさと来てよ」

    ひーちゃんは原付を飛ばして帰った
    人と話すのは久しぶりだった
    自分ってこういう話し方だっけ? と思った

    アパートにつく
    ドアの前に、はーちゃんが座っていた

    明るい髪色で、目がパンダのはーちゃん
    ひーちゃんが一番苦手なタイプだった

    30: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/20(月) 19:49:21.64 ID:jgKbHQ84O
    気になる

    31: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/20(月) 19:50:50.53 ID:0+F9qqc+0
    「ここ、パソコンある?」とはーちゃんが聞いた

    「ある。ネットには繋がってないけど」

    「じゃあ、ここで作業するよ。もう時間ないし。いいでしょ?」

    「いいですよ」

    はーちゃんはひーちゃんの部屋に入って
    ひととおり物の無さと生活の質素さに驚いて
    四回「はあ?」って言ったあと、課題をはじめた

    ひとごろしひーちゃんにとって、ここは生活空間ではないのだ

    32: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/20(月) 19:55:38.03 ID:0+F9qqc+0
    まずいことに、その課題の趣旨は
    「相手がこれまでどのように育ってきたか」を
    インタビューしてレポートにまとめるというものだった

    まずひーちゃんがはーちゃんにインタビューした
    三歳からピアノを始めた、小学校から塾に通った
    中学は体操部に入った、高校は女子校
    はーちゃん、意外とお嬢様だった

    35: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/20(月) 20:00:38.52 ID:0+F9qqc+0
    ひーちゃんは聞いた
    「どうしてお嬢様が、そんなんになっちゃったんだ?」
    はーちゃんは少し間をおいて答えた
    「良い本や良い音楽と巡り合ったから」

    はーちゃんの口からそんな言葉を聞くとは思わず
    ひーちゃんはなんか久々につぼに入って笑った
    実に久しぶりだった

    ひーちゃん的には爆笑だったのだが
    はーちゃんには薄ら笑いを浮かべてるようにしか見えなかった
    はーちゃんはちょっと不機嫌になった

    36: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/20(月) 20:01:50.31 ID:0+F9qqc+0
    ところがその本や音楽について聞いてみると、
    ひーちゃんの趣味と結構似ていた

    ひーちゃんがそれらのCDや本を持っていると言うと、
    はーちゃんは「知ってるよ。そこにあるやつでしょ」と言った
    「はあ?」って言ってもらえなくてひーちゃんがっかりした

    37: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/20(月) 20:04:46.38 ID:0+F9qqc+0
    はーちゃんの好きなグールドのCDを流しつつ、
    ひーちゃんの人生についての説明が始まった

    壮絶過ぎてはーちゃんコメントに困った
    もちろん自殺については隠したが

    はーちゃんは話題を逸らすことにした

    「さっき、電話で『寝てた』って言ったよね?」

    「うん。寝てた」

    「イオンで寝てたわけ?」

    「そういうこと」

    はーちゃんますます混乱した

    40: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/20(月) 20:06:41.69 ID:5pHrw3Ib0
    続きが気になる

    41: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/20(月) 20:07:27.85 ID:0+F9qqc+0
    はーちゃんは聞いた、
    「君、一日何時間寝てるの?」

    「量だけなら、六時間くらい」

    「昼夜逆転型なの?」

    「特殊な不眠症なんだ」

    はーちゃんはひーちゃんの顔を見た
    明らかに睡眠不足の顔だった

    でこぴんすると二秒遅れて「痛い」と言った
    反応速度とかも相当にぶっている
    これは重傷だ、とはーちゃんは判断した

    43: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/20(月) 20:10:27.97 ID:0+F9qqc+0
    互いのインタビューが終わり、二人はレポートを書きはじめた
    ひーちゃんが一足先に書き終えた

    ひーちゃんは眠気で頭がどうかしているので、
    はーちゃんに馴れ馴れしく話しかけた
    「早く書けよ、はーちゃん」

    「うるさいなー、急いでるよ」

    「そっちが終わらないと俺も終わらないんだから」

    「てか、はーちゃんって誰だよ」

    ひーちゃんはあだ名について説明した
    以後、はーちゃんはあんまり「はあ?」って言わなくなった

    44: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/20(月) 20:11:35.39 ID:slD7UxQr0
    グールドってグレングールドのことか?
    俺も好きだわ

    46: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/20(月) 20:11:59.66 ID:0+F9qqc+0
    >>44
    そうそう
    よく御存じで

    47: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/20(月) 20:12:42.23 ID:0+F9qqc+0
    「あとどれくらいかかる?」とひーちゃんは聞いた

    「二十分くらい……」

    「寝よ。終わったら容赦なく起こして」

    はーちゃんはキーボードを叩く手を止めた
    「なんでいっつもそんなに眠いの?」

    「人がいるとこでしか寝れないんだよ」

    「はあ?」

    「信じなくてもいい」、ひーちゃんは笑った

    49: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/20(月) 20:14:28.45 ID:5pHrw3Ib0
    実話?

    50: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/20(月) 20:16:05.56 ID:0+F9qqc+0
    ひーちゃんは熟睡した
    はーちゃんはレポートを仕上げたあと、
    喉が渇いたので、外の自販機まで行った
    赤い夕焼けで、皆が空を見上げていた

    冷たいコーヒーを二つ買って戻ると、
    さっきまでいた部屋から、ガラスが割れる音がした

    51: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/20(月) 20:18:24.12 ID:0+F9qqc+0
    「なに、今の?」戻ってきたはーちゃんは聞いた

    「ゴキブリがいたから殺そうとしたんだよ」

    ひーちゃんは笑って言った
    携帯を投げて窓を割ったらしい

    「顔、真っ青だよ?」

    「ゴキブリ、苦手なんだ」ひーちゃんは答えた

    53: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/20(月) 20:20:04.74 ID:0+F9qqc+0
    ガラスを集めながら、はーちゃんは理解した

    この人、本当に、人がいるとこでしか寝れないんだ
    ていうか、寝れない以上の何かがあるんだろうな
    マジあたまおかしーんじゃねーの

    「……寝れないなら、友達とか、呼べばいいじゃん」

    「見りゃ分かるだろ、友達いないんだよ」

    そんで家族は一人もいない、か
    はーちゃんはひーちゃんの頭を撫でてあげたかった
    でも不気味がられるだろうからやめておいた

    54: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/20(月) 20:23:10.23 ID:0+F9qqc+0
    変なとこ見られちゃったなあ
    ひーちゃんはちょっと気まずかった
    二人はようやく完成したレポートをメールで送り、
    はーちゃんはここにいる理由がなくなった

    はーちゃんは立ち上がった
    CDをポリーニに換えて戻ってきた

    「まだなんかあった?」とひーちゃんが聞くと、

    「さっきの話、全部本当だよね?」とはーちゃんは言った

    「ゴキブリってのは嘘だ」とひーちゃんは答えた

    57: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/20(月) 20:25:17.44 ID:0+F9qqc+0
    「ゴキブリってのは嘘だ。俺、ちょっと頭おかしくてさ。
     一人で寝ようとすると、眠りについた瞬間にふっと目が覚めて、
     全身焼けただれた兄がこっちを見てるっていう幻覚を見るんだ」

    「……はあ?」

    「マジだよ、はーちゃん。おかしいよな」

    ひーちゃんが笑った
    ひーちゃんが笑うタイミングが、
    なんとなくはーちゃんには分かった気がした

    60: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/20(月) 20:29:05.48 ID:0+F9qqc+0
    はーちゃんはしばらく黙っていた
    音楽のおかげで、沈黙は苦痛ではなかった
    窓から差し込む西日が部屋を赤く染めた

    はーちゃんはひーちゃんを横からどついた
    弱っていたひーちゃんはあっさりソファの上に倒れた

    「寝なさい」とはーちゃんは言った

    ひーちゃんは頷いて眠った

    61: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/20(月) 20:30:39.83 ID:0+F9qqc+0
    ひーちゃんはびっくりするほどよく眠った。

    62: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/20(月) 20:34:09.76 ID:0+F9qqc+0
    ひーちゃんが目を覚ました
    うつらうつらしているはーちゃんが横にいた

    「おはよう」とひーちゃんは言った

    「ん? ……ああ、おはよう」

    時計を見て、ひーちゃんは驚いた
    「七時間、ずっとここにいたんだ?」

    「ん、まあ。本もあったし」
    はーちゃんは慌てて本を掲げてそれを証明した
    本が逆さまであることに関して
    ひーちゃんは特に何も言わなかった

    64: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/20(月) 20:36:57.71 ID:xzLBUy9f0
    こわいおもしろい
    こわいおもしろい

    65: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/20(月) 20:37:19.68 ID:0+F9qqc+0
    ひーちゃんはお礼を言った
    「ありがとう。あと、コーヒーありがとう」

    「君、人にちゃんとお礼言えるんだね」
    はーちゃんは目を逸らして言った

    「言えるよ。君こそ、人に優しくできるんだね」

    「別に。あー眠い」

    はーちゃんはすぐに眠りだした
    ひーちゃんは外に出て、久しぶりに心地よく伸びをした

    よく寝たー。

    67: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/20(月) 20:40:29.20 ID:0+F9qqc+0
    二時間後、はーちゃんが目を覚ました
    ひーちゃんのソファを使っていたことに気づき、
    気まずそうな顔で丁寧になおした

    「寝ちゃった」とはーちゃんは言った

    「おはよう」

    「おはよう……帰るね」

    「ん、じゃあ」

    はーちゃんは目をこすりながら出ていった

    ひーちゃんはその光景を一生忘れないと思う
    もうすぐ死ぬから当たり前と言えば当たり前か

    あんまり死にたくないなあ、とひーちゃんは思った
    でもそういうわけにもいかないのだ

    70: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/20(月) 20:43:31.94 ID:0+F9qqc+0
    以来、はーちゃんはときどき手伝ってくれるようになった

    「ひーちゃん、ひーちゃん」

    「んー?」

    「最近寝てる?」

    「寝てない」

    「寝る?」

    「寝さして」

    二人でいるときは、いつもどっちかが寝てるから
    あんまり言葉を交わすこともなかったが、
    ひーちゃんもはーちゃんもその時間がとっても好きになった

    71: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/20(月) 20:47:03.20 ID:pElToZtEO
    はーちゃんいい子
    マジいい子

    74: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/20(月) 20:49:21.34 ID:0+F9qqc+0
    はーちゃんが好きな煙草はキャスターだった

    「部屋ん中で煙草吸わないで」

    「いいじゃん、どうせもうすぐいなくなるんでしょ、きみ」

    「おいしいか、それ?」

    「まさか。おいしいわけないじゃん」

    「吸うなよ」

    「だって私に煙草が似合うんだもん、しょうがないじゃん」

    「似合わないよ。あと、髪染めるのも似合わない」

    「似合うし」

    「化粧濃い」

    「うっせー」

    はーちゃんの化粧は徐々に薄くなり始めた

    77: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/20(月) 20:53:09.67 ID:0+F9qqc+0
    大学には保育科のためのピアノ練習室があった
    講義の合間に、ひーちゃんが眠くなったとき、
    はーちゃんはそこにひーちゃんを連れ込んだ

    はーちゃんは定番のゴルドベルク変奏曲を弾いて、
    ひーちゃんはピアノカバーにくるまって寝た

    音楽室は外の音が全く聞こえなかった
    はーちゃんはひーちゃんが起きるのを待つ間、
    試験範囲をバカにも分かりやすくまとめることにした
    自分がそこまでしてあげる理由が分からなかった

    78: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/20(月) 20:54:30.94 ID:xzLBUy9f0
    セツナイ

    80: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/20(月) 20:56:05.67 ID:0+F9qqc+0
    はーちゃんがいても兄が現れるようになったことは言わないでおこう。

    82: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/20(月) 20:57:50.93 ID:rczFjYKG0
    マジかよ、ひーちゃん終わりじゃねぇか

    84: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/20(月) 20:59:22.84 ID:0+F9qqc+0
    「なんで自殺しようと思ったの?」

    その頃にははーちゃんも、ひーちゃんの自殺未遂で
    家族が全員死んじゃったってことを知らされていた

    「生きてて楽しくなかったんだ。本当に深い理由はない。
     当時の俺は知的生命体じゃなかったんだよ」

    「それで死ぬなんて、馬鹿じゃないの?」

    「そう、馬鹿だったんだ。けっこう生きるの楽しいのにな」

    そう言った後で、ひーちゃんはちょっと嫌な気持ちになった
    ひとごろしのひーちゃんは三人も殺したのだ
    楽しい楽しい人生を三つも焼却してしまった
    殺されても文句は……あるよな、それでも

    85: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/20(月) 21:03:22.18 ID:0+F9qqc+0
    「罪ってのは永遠に許されないもんだと思う?」

    ある日ひーちゃんは唐突にそう言った

    「そうだなあ」とはーちゃんは考えた

    どうにもうまい慰めの言葉を思いつけなかった
    だって、確かにひーちゃんは悪いやつなのだ

    今のひーちゃんは絶対に悪さはしない、
    いわゆる「更生した」ひーちゃんだけど、
    三人殺してしまったことが許されることはない

    86: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/20(月) 21:06:37.40 ID:0+F9qqc+0
    困り果てたあげく、はーちゃんは、
    「私は君のこと好きだよ」と言った

    「はぐらかさないで」とひーちゃんは言った

    「そっちこそはぐらかさないで」とはーちゃんも言った

    ひーちゃんは眠気で理解力が落ちていて、
    はーちゃんが何を言いたいのか分からなかった

    87: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/20(月) 21:11:03.47 ID:0+F9qqc+0
    はーちゃんはひーちゃんはをソファに押し倒した

    「気にすんなよ。寝なさい」

    でもひーちゃんは目を開けたままだった

    はーちゃんはソファに座り、ひーちゃんの頭を膝に乗せた
    ひーちゃんますます眠れなくなった

    88: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/20(月) 21:12:22.16 ID:rczFjYKG0
    大学生の癖に可愛いやつらめ

    90: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/20(月) 21:17:26.25 ID:0+F9qqc+0
    はーちゃんはちょっと考えた
    これ、二人で住んだ方が効率いいよなあ
    そうしたらいちいちお互いの家まで来なくて済むし、
    家賃も安くなるし、私ひーちゃん好きだし

    ようやく寝息を立て始めたひーちゃんの
    頭をそっと撫でながら、はーちゃんは決めた
    ひーちゃんが起きたら、一緒に暮らそうって言おう

    93: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/20(月) 21:21:36.58 ID:0+F9qqc+0
    「おはよう」ひーちゃんが起きた

    「おはよう。よく寝れた?」

    「正直、緊張してあんまり寝れなかった」

    「あはは。だっせー」

    「嬉しいけど、こういうのは困る」

    「そっか。次もやろうっと」

    「暗いから気を付けて帰りなよ」

    「うん。じゃあね」

    はーちゃんは手を振って家を出た
    ひーちゃんはドアが閉まってもしばらく手を振っていた

    94: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/20(月) 21:22:06.50 ID:xzLBUy9f0
    やめたげて…

    95: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/20(月) 21:22:51.10 ID:0+F9qqc+0
    はーちゃんが帰ると、ひーちゃんはもう一度眠った。

    96: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/20(月) 21:23:28.26 ID:5pHrw3Ib0
    >>95
    エッ

    98: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/20(月) 21:24:36.37 ID:0+F9qqc+0
    翌日はーちゃんが部屋を訪れると、
    ひーちゃんはもういなかった
    鍵は開いていたので、はーちゃんは待つことにした

    100: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/20(月) 21:27:55.29 ID:0+F9qqc+0
    はーちゃんはちょっと寂しかった
    十六時間くらいそこで寝たり起きたりした

    裸足のまま外に出てみた
    虫の声がひりひりきこえた
    夏の匂いは濃すぎるくらいだった

    「ねえ、映画観に行こうよ。ひーちゃんは寝ててもいいからさ」

    はーちゃんはひとりごとを言った

    「殺人犯が酷い目にあうやつ。一緒に見に行こうよ」

    ひーちゃんがしかめづらをするのを想像して、はーちゃんは笑った

    「あと、ついでにさ……こうやって行き来するもの面倒だし、一緒に住みませんか?」

    なんで敬語なんだよ、と言われるのを想像して、はーちゃんは笑った

    そんで泣いた


    101: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/20(月) 21:31:52.00 ID:2jTIEedh0
    なんだろこれ…

    泣ける

    泣いてる

    外なのに…

    恥ずかしいわ

    102: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/20(月) 21:32:14.23 ID:0+F9qqc+0
    だからそれ以来、はーちゃんはしおらしくなった
    煙草をやめて、髪も黒くして、化粧も薄くなった
    ひーちゃんが見ても、私だと気づかないだろうな

    ひーちゃんの部屋から持ち帰ったCDをかけて、
    はーちゃんは自室で今日もうつらうつらする

    膝に乗せたひーちゃんの頭の重みを思い出しながら、
    手に触れる硬い髪の感触を思い出しながら。

    103: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/20(月) 21:33:03.06 ID:0+F9qqc+0
    以上でひーちゃんとはーちゃんの話、お終い。
    最後まで読んでくれた人は暇人。ありがとう暇人。

    104: 忍法帖【Lv=40,xxxPT】   【55.8m】 2012/02/20(月) 21:34:04.04 ID:7WBdX0xN0
    ひーちゃん‥‥

    105: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/20(月) 21:34:06.56 ID:2jTIEedh0
    乙乙乙

    これ実話?

    108: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/20(月) 21:35:37.70 ID:lO+xYJ8S0
    スレタイからは想像できなかった
    切ない乙

    110: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/20(月) 21:37:08.92 ID:pElToZtEO
    ひーちゃん何処行ってしもたん…?

    122: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/20(月) 21:51:55.06 ID:slD7UxQr0
    すげーよかったよ
    なんか切ない感じになった

    117: 忍法帖【Lv=40,xxxPT】   【58.1m】 2012/02/20(月) 21:40:41.29 ID:7WBdX0xN0
    引き込まれたわ
    店舗よくて読みやすい

    123: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/20(月) 21:56:29.40 ID:TmzetGvHO
    おもしろかったー!

    111: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/02/20(月) 21:37:11.93 ID:+zaqEzXb0
    死ぬ前に自ら消えるなんて猫みたいだな







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    コメント一覧

    1  不思議な名無しさん :2021年10月19日 19:19 ID:69Faklj70*
    これも安倍政権の犠牲者だな
    2  不思議な名無しさん :2021年10月19日 19:28 ID:czYE7GH60*
    面白かった
    ちゃんとした作家の書いた短編小説みたい
    3  不思議な名無しさん :2021年10月19日 19:30 ID:KfcTTAPb0*
    メンヘラのなんちゃって文学もどきか
    一時期流行ったよな、げんふうけいとか
    4  不思議な名無しさん :2021年10月19日 19:31 ID:LXwFR0Lc0*
    三秋縋先生の作品だね
    5  不思議な名無しさん :2021年10月19日 19:46 ID:vRg0iS.N0*
    胸糞要素を取り除いた「ヒミズ」だな
    6  不思議な名無しさん :2021年10月19日 19:51 ID:hEt1wY1.0*
    つまりどういうことだよ
    7  不思議な名無しさん :2021年10月19日 19:52 ID:bRXIlKH60*
    なにこれめちゃくちゃ良かった
    ネットにあがるこの手の作品で今まで1番良かった
    書籍化されてる小説と比べても遜色ない
    すげー良かった
    8  不思議な名無しさん :2021年10月19日 19:58 ID:DeAO7KLL0*
    >>2
    三秋縋っいう今はプロの作家がデビュー前にネットに書いてた話だよ。
    9  不思議な名無しさん :2021年10月19日 19:59 ID:wNIMuwwx0*
    ひーちゃんとはーちゃんの話(2012)
    10  不思議な名無しさん :2021年10月19日 20:00 ID:X6KcHlq.0*
    まあ、忘れなきゃ一年後に帰ってくるよ。
    11  不思議な名無しさん :2021年10月19日 20:03 ID:5K50Nm360*
    殺人犯本人の「更生した」なんてアテにならんしこの手の奴はクズエピソードも無自覚に隠してたりするからハッピーエンドじゃなくて良かったと思った
    身近に似たタイプの人間がいる人はわかると思う
    12  不思議な名無しさん :2021年10月19日 20:04 ID:TurXbPkI0*
    >>2
    げんふうけいって人の作品だよ。
    2ちゃんに投下して今は商業に出してる人。寿命を1万円で買い取ってもらったとか言う奴が漫画化された。
    13  不思議な名無しさん :2021年10月19日 20:05 ID:vTPq3RK70*
    >>11
    というか殺したこと隠して生きてる時点で更生以前の問題だしな
    ただの開き直り
    14  不思議な名無しさん :2021年10月19日 20:15 ID:wNIMuwwx0*
    このコメ欄、真面目君というかアスペ二匹いて草
    15  不思議な名無しさん :2021年10月19日 20:17 ID:PlkX4o4N0*
    >>1
    クスッときた
    16  不思議な名無しさん :2021年10月19日 20:18 ID:mgKr3DzL0*
    容姿が良いと勝手に素敵な恋愛が始まるんだな
    17  不思議な名無しさん :2021年10月19日 20:21 ID:w6SDy.KJ0*
    面白くて切なかった
    18  不思議な名無しさん :2021年10月19日 20:22 ID:0o96cvQq0*
    良かった、他の作品も読みたい
    19  不思議な名無しさん :2021年10月19日 20:24 ID:OruRsLYs0*
    >>16
    クズ男の前にある日突然親切な女の子が現れて
    特に意味もなく寄り添ってくれて精神的ケアしてくれるオタク特有の自慰話は見飽きた


    1564のために青春の貴重な時間を使わせるんじゃない
    20  不思議な名無しさん :2021年10月19日 20:25 ID:mgA9E.h.0*
    殺人鬼は幸せにはなれない
    21  不思議な名無しさん :2021年10月19日 20:27 ID:OruRsLYs0*
    両親必要なかったし兄の幽霊?も人殺し設定も特に必要なかったよな

    死のうとしたら恋人できたからやめたけどやっぱり死にますさようなら……だけでも切ない話として十分成り立つ

    ホラーとラブがどちらも中途半端
    22  不思議な名無しさん :2021年10月19日 20:28 ID:Udg.ubM50*
    都合の良い女が出てきた時点で見るのをやめた
    23  不思議な名無しさん :2021年10月19日 20:31 ID:SQMU.arX0*
    殺人を自滅で相殺できたと思えないし、全体的に平面的だし、文章力も疑問だが、異世界転生や短い動画がウケるような世代にはちょうどいいのかね。
    24  不思議な名無しさん :2021年10月19日 20:40 ID:0o96cvQq0*
    >>23
    いや、道徳の話ではないと思うし文章は作風だと思うんですが
    25  不思議な名無しさん :2021年10月19日 21:04 ID:KmKnDhLB0*
    >>23
    自分の好みじゃないってだけでボロクソ書く奴www
    26  不思議な名無しさん :2021年10月19日 21:42 ID:XvIOWQHI0*
    この人の本、家にあるわ
    27  不思議な名無しさん :2021年10月19日 21:44 ID:muTHKfGO0*
    3にんもころしたら報いはいけないと。何いい話みたいにしてやがる
    28  不思議な名無しさん :2021年10月19日 22:03 ID:9CPrpfA10*
    >3
    プロやぞ
    29  不思議な名無しさん :2021年10月19日 22:10 ID:uEEPrRDn0*
    片方が寝ていると片方が起きている
    つまり多重人格の話だな
    30  不思議な名無しさん :2021年10月19日 22:12 ID:cSDHkPjm0*
    嫌いじゃない
    31  不思議な名無しさん :2021年10月19日 22:17 ID:16QOv7pY0*
    こういうのでいいんだよ

    最初から最後まで、飛ばす事なく読み切った
    その結果、あやふやで全く輪郭が掴めないんだけれど、そんな掴み所の無い何かが心に残る
    それが"不思議"って奴なんだ
    32  不思議な名無しさん :2021年10月19日 22:27 ID:l.qX4JWO0*
    ブラマヨ小杉「ヒーハー!」
    33  不思議な名無しさん :2021年10月19日 23:49 ID:7SrCB83p0*
    読みやすい
    34  不思議な名無しさん :2021年10月20日 00:02 ID:VHNcYefa0*
    >>3
    っけぇ…w

     
     
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